第52話「太田さんは、彼は私のことを好いてくださっております」
「太田さんは、彼は私のことを好いてくださっております」
それは祭も見ていて判っている。伶佳には気が無いことも。
「そうなんですね。私には何とも」
「それでですね」
「はい、なんでございましょう」
「伶佳さんを止めていただきたいのです」
それが出来れば苦労しはない。祭の言うことを聞くような伶佳ではない。こと太田の件となると父である監物の言葉ですら聞く気が無いだろう。
「それは無理だと」
「判っています。祭さんのいう事を聞くような伶佳さんではないでしょう。そこで取引と行きませんか?」
「取引ですか?」
「そうです。伶佳さんを太田さんから遠ざけていただけるのであれば西条家の悲願は私がなんとかします」
「えっ?」
西条家の悲願。『無名祭祀書』の解読を終えた今、必要なものはいくつかの贄と星辰が整うこと。星辰が整うのはもうすぐそこに迫っているが贄がまだ揃っていない。それを紗栄子が用意するというのだろうか?
「そうはどういうことでしょうか」
「簡単なことです。全て私が揃えましょうと言っているのです」
華族の力は絶大とはいえ西条家ですら簡単には必要な贄を揃えることが出来ていない。方波見家や神崎大警視の力を借りても未だ目途が立ってはいなかった。
「紗栄子様が全部揃えていただけると?」
「そう言っているのです」
話が違ってきている。本当は紗栄子が西条家の悲願の邪魔をするつもりであることを確認に来たはずだった。それが紗栄子自身が全てを用意すると?
「何か当てでもおありなのでしょうか」
「勿論。なければこんな提案はいたしません」
紗栄子の表情には何の衒いもなかった。
「それはいいのですか、伶佳お嬢様はそれでもお聞きくださらないでしょう。御館様のいう事ですら歯止めにならないのです」
祭は正直に紗栄子に訴えるのだった。




