第51話「何のお話でしょうか」
「何のお話でしょうか」
「いいえ、特別何かのお話をしたいということではないのですよ。祭さんと二人っきりになるなんて初めての事ですから、一度ゆっくりお話をしてみたかったのです」
祭には紗栄子の真意が読めなかった。
「あまり時間もないので、出来れば今度ゆっくりと」
「いいえ、今度は多分なさそうなのでぜひ今ここでお話しをしたいのです」
紗栄子は引きそうになかった。こんな紗栄子を見るのは初めてだ。ただの気の弱いお嬢様だとばかり思っていたのだが。
゜わっ、判りました。では少しだけ。直ぐに戻らなければ伶佳お嬢様から叱責を受けてしまいますので」
それは本当の事だった。太田が来ていないので太田を連れだって屋敷には戻れない。時間をあまりかけることはできなかった。
「はい、勿論」
「それでお話ししたいこととは?」
「そうですね、太田さんの事です」
紗栄子はストレートに言葉の槍を突きさしてくる気のようだ。
「太田さんの事ですか。それが何か?」
祭は惚けた。紗栄子の言いたいことは痛いほど判る。
「私は太田さんのことが大好きです。多分伶佳さんよりずっと好きだと思っております」
紗栄子は祭の眼をまっすく見て宣言した。それは祭を通じて伶佳へ戦乱布告するかのようだった。
「そうなんですね。それでそれが私に何か関係がございますのでしょうか」
「祭さんと言うよりも伶佳さんに関係があるのはご存知でしょう」
紗栄子の言葉には言い逃れが出来ない圧があった。紗栄子が有する特殊能力かも知れない。気弱なお嬢様は世を忍ぶ仮の姿ということだ。
「私は何も」
「いいでしょう。私から言わせていただきます。西条伶佳さんは私と同じように太田さんのことを好いておられる、ということを確認しているのです」
当然普段の態度で誰もが知っている事だった。ただ身分の違いがあるので結婚できないことも。ただそれは紗栄子にしても同じではないのか?
「それは確かにそういうこともあり得るとは思いますが」
祭はなんとか言葉を濁そうとするが上手く行かなかった。嘘が吐けないのだ。言葉を選ぶしかなかった。




