第50話 「ご無沙汰しております、紗栄子様」
「ご無沙汰しております、紗栄子様」
祭は翌日嬬森家を朝から訪れていた。
「これは一人でいらっしゃるのは珍しいですね、祭さん」
「はい。多分初めてだと思います」
「それで?」
紗栄子は落ち着いているように見える。西条家を裏切る決断をしたようには見えない。もしかしたら西条家を裏切ることが紗栄子にとって大したことではないと思っているのだろうか。
「紗栄子様のお気持ちをお聞きしたいと思ってきました」
「私の気持ち?」
「はい。西条家に対するお気持ちでございます」
あまり直接的な言葉を掛ける訳にも行かないが事の核心に触れない訳にも行かない。
「西条家に対する気持ち?それはいったい何のことを仰っていますの?」
「西条家の悲願はご存知ですよね」
「勿論父に聞いております」
「では、嬬森家、ひいては紗栄子様も西条家の悲願を成すことにご協力いただいていると考えてよろしいでしょうか」
「それは当たり前でしょう。なぜそんなことを態々お聞きに来られたのかしら?」
祭が使い魔を放って紗栄子と太田との会話を盗み聞きしていたことを言う訳には行かない。紗栄子にしらばっくれられれば、それ以上追及は出来なかった。
「いえ、少しだけ気になっただけなのです。問題が無ければ私はこれで失礼させていただきます」
「そうですか。でもやはり態々来られたことが引っかかってしまうのですが」
紗栄子の眼が笑っていないことに祭は気が付いた。こんな紗栄子は見たことが無い。祭が知っている紗栄子はいつも笑っているかおどおどしていたからだ。
「いえ、私の勘違いでした。申し訳ありません、これで失礼させていただきます」
部屋を出ようとする祭と扉の間に紗栄子が割り込んだ。
「もう少しお話しいていかれませんか?」
やはり紗栄子の眼が笑っていなかった。




