第47話 「今日も太田さんは嬬森家へ?」
「今日も太田さんは嬬森家へ?」
伶佳の機嫌は悪かった。もう何日も太田の顔を見ていないからだ。それは『無名祭祀書』の解読が終ったと聞いても変わらなかった。
経過にとって既に西条家の悲願よりも太田の方が大切になってしまっている。
それはただ恋敵の相手(伶佳が勝手にそう思っているだけだが)が嬬森紗栄子であることも大きい。
西条公爵家の閥の中心の家とは言え自分よりも地位も容姿も強要も劣ると思っている紗栄子に太田の気持ちが向かっていることが堪らなく嫌だった。
それはただの嫉妬ではない。西条伶佳の人生の全てを太田に捧げることもできる。伶佳はそれに太田が応えてくれるはずだと思っていた。
「祭、祭は居ないの?」
伶佳が呼ぶと直ぐに祭はやって来た。
「どうなさいましたか、伶佳お嬢様」
「だから言っているでしょう。太田さんを今すぐ読んで頂戴」
「そう仰られましても。何度も神戸家には使いを走らせては居るのですが」
「だったら祭が直接行ってきてよ」
「私がですか?」
西条家でのメイド長という役職であれば華族ではない神戸家への使いなど行くものではなかった。
「それは流石に」
「流石に、何よ。いくら使いを出しても太田さんは来ないじゃない。祭が行って太田さんを連れて来て欲しいのよ」
「無理にでも、力尽くでも、ということですか?」
「そうよ。あなたの力なら簡単でしょう。それにしても太田さんは、神戸家の使用人がウチの、西条家の誘いを断っていいと思っているのかしら」
「神戸家には神戸家の、太田さんには太田さんの考えかおありなのではないですか?特に神戸家のご当主は旦那様とも親しくなさっておられましたので」
「でも、神戸家はあの神戸家なのよ。お父様にも報告してあるんでしょう?」
「それはもちろん。旦那様には旦那様のお考えがあると思います」
「神戸家もお父様もどんな考えがあるのか知らないけれど私と太田さんの邪魔はしないで欲しいものだわ」
伶佳から見ると嬬森紗栄子も神戸道隆も父親でさえ自分の恋路を邪魔しているようにしか思えなかった。




