第44話 さらに紗栄子は続ける。
さらに紗栄子は続ける。
「私はこれでも方波見れいな様とは懇意にしているのですよ」
太田の心の中の疑問にそういう形で紗栄子が答えた。方波見伯爵家は西条公爵閥で情報収集の任に当たっている。そのことは太田の知識にもあった。
「そうなのですね。神戸家のことを探っておられる方が幾人かいらっしゃるとは認識していたのですが、多分一人は西条家の祭さんの配下、そしてもう一人が方波見れいな様ということでしたか」
神戸家が神戸信孝の子孫であることは西条家にはすでに知られている、ということだ。ただ神戸家としては隠しているつもりもなかった。世間がそう認識していないだけだったのだ。
「それでお嬢様はどうされるおつもりですか」
「このままでは西条家の悲願が成就してしまいます。そうなればこの国は滅びてしまうでしょう」
「そうは同じ思いなのですが、お嬢様のお立場から、そのお気持ちは大丈夫なのですか?」
嬬森侯爵家は西条公爵閥のなかでも有力華族の一つに数えられている。その嬬森侯爵家の一人娘である紗栄子が西条家の悲願を否定するようなことを言うのは本来許されることではない筈だ。
「大丈夫ではありませんわ。父にも私の気持ちは伝えておりません」
紗栄子は父佐久弥の前では従順を貫いている。そういう風に育てられてきたのだ。
「そんな大切なことを私などにお話をされて、よいのですか?」
「良くはないでしょうね。でも私の本心を太田さんには知って置いていただきたかったのです」
戦国の世、敵対していた最上寺家と織田家。その各々の直系である西条家と傍系である神戸家。今の世でも敵対していても可笑しくはない。
西条家の悲願成就は神戸家からすると許すべきことではなかった。
「では私たちに協力していただけると?」
「そうとも言っておりません。西条家の悲願、神戸家の悲願。どちらも成就させる訳には行かないと思っております」
ここで初めて太田の表情が変わる。神戸家の悲願、この娘はそこまで知っていて自分と関わっていたというのか。
「神戸家の悲願も、ですか」
「そうです。西条家の悲願同様神戸家の悲願も成就させる訳には行かないと思っています」
紗栄子の表情には硬い決意の気持ちが表れている。
「ただ、私一人の力ではどうにもならないとも思っております」
「というと」
「そうです。西条家の悲願を成就させないお手伝いをする代わりに太田さんには神戸家の悲願を成就させない手伝いをお願いしたいのです」
ただの箱入り娘としか思っていなかった太田は驚いた。全てを判った上で太田に、全てを阻止する手伝いをしろ、というのだ。




