第43話 「西条家に動きがあったようです」
「西条家に動きがあったようです」
嬬森家を訪れていた太田に紗栄子がそう報告した。
「動き、ですか?」
「そうです。西条家のメイド長である祭さんが佐島の別荘が戻られたそうです」
「なるほど。ですが、それが動き、というのはどういうことでしょうか」
「祭さんは佐島で無名祭祀書の解読をしておられる無名さんと仰る方のお手伝いをしておられました。それが戻られたという事は」
「解読が終った、ということですか」
「そうです。私の式神が祭さんの使い魔に気づかれないように探っていましたので間違いありません」
嬬森紗栄子が使う式神は祭の使い魔が小動物であることに対して物に擬態できる。そこにあることが違和感のない物であれば、どんな物でも擬態できるのだ。
「そうなんですね。でも、それをなぜ私に?」
太田からすればそれが一番の疑問だった。そもそも西条家と神戸家は敵対している。その認識は神戸家の方が強い。
西条家からすれば神戸家はいつでも潰せる小さい存在でしかない筈だったが、神戸家からすると西条家はいつか蹴落とす対象だった。
一度国の頂点に立った織田家の傍流ではあったが神戸家の者は再び国の頂点に立つ野望を忘れてはいない。
太田からすると嬬森家も本来蹴落とす対象ではあったが、個人的な感情でそれは揺れていた。当主である神戸道隆はいまのところそれを許している。
「私は、太田さんが好きです」
いままで何度か口にされている言葉だった。それは幼い恋心ではあったが紗栄子からすると精一杯の感情表現だったのだ。
「ありがとうございます。私もお嬢様が大好きですよ」
その言葉には感情と理性が交差していた。嬬森紗栄子を取り込むことには利がある。ただ行為としての感情も同時に持ち合わせているのだ。
「それで、です。西条家の悲願についてはご存知ですよね」
紗栄子がこの手の話をするのは初めてのことだった。西条家については話題はできるだけ避けていたのだ。
「はい、存じ上げております」
太田は隠さず応えた。
「太田さんがそれを阻止しようとしておられることは私も存じ上げております」
太田は紗栄子が神戸家のことを、そして太田が紗栄子に近づいた元々の理由を知っていたことに驚いた。そこまで聡い娘だとは思っていなかったのだ。




