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第38話 れいなの感情はただの恋心だったのだ。

 れいなの感情はただの恋心だったのだ。


 西条伶佳が会場を後にしてしばらくしてから方波見家と千鳥家の婚約披露パーティーは滞りなくお開きとなった。


 両家の仲が良くなることは派閥としていいことなのだが情報機関の役目を担っている方波見家と違い千鳥家は華族には珍しく武家に近い一族だった。


 現当主の凱史も剣道は三段だが古剣術の千鳥流は免許皆伝の腕前で真剣を持たせたら今の日本では敵うものが居ないほどだった。


 昔で言う忍者や乱波の流れを汲む方波見家と古くは剣術指南役だった千鳥家との婚姻は両家の融合と生き残りに必要なことだったのだ。


 ただ方波見家のれいなとしては目に見え実績を早々に見せる必要があった。存在意義が問われ出している時代になってしまったからだ。


「凱史、少し私は居なくなります」


 れいなにはいつもの事だったので凱史は驚かない。一週間や10日連絡が取れないことは日常茶飯事だったのだ。


「判った、気を付けてちゃんと戻ってくるんだよ」


「はい。正式な結婚までは命を落とす訳にはいかないから」


「命を落としそうなことなのか?」



「いいえ、多分そんなことにはならないと思う。ただ西条家の悲願を手助けすることは何よりも増して重要ということは理解してほしいわ」


「それほどのことなの?」


「それほどのことなのよ。凱史は知らない方がいいけれどね」


「判った、詳しくは聞かない。ウチの家は西条家傘下の中でも傍流だから肝心なことは知らされないことが多いからね。下手に首を突っ込むと潰されかねない」


 いままでいくつか目の当たりにしていることだった。西条家の意向に逆らって潰された家は一桁ではきかない。


「それにしても紗栄子は大丈夫かしら。佐島に行く前に一度嬬森家に立ち寄ってみるわ」


「そうしてあげなさい。彼女も喜ぶだろう」


 凱史は剣の腕前は一流だがそれ以外はただの良い人だった。れいなとは幼馴染で両家の結びつきを強める目的もあったが二人が望んだ婚約でもあったのだ。


 翌日、れいなは佐島に向かう途中で嬬森家に立ち寄ってみた。


「紗栄子さんはいらっしゃいますか?」


 れいなが訪ねると対応に執事が出て来た。


「これは方波見れいな様、今お嬢様はお休みになっておられますが、いかがいたしましょう」


「お加減でも悪くなさっているの?」


「はい、昨日戻られてからずっと」


 紗栄子は昨日パーティーから戻るとずっと自室に引きこもっているようだ。

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