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第37話「お父上にも相談した方が」

「お父上にも相談した方が」


「いいえ、父には報告しません。凱史さんもあなたのお父上には何もおっしゃらないでください。ことは私で対処しますから」


 れいなは何か妙案が有る訳ではなかった。ただ最近耳に挟んでいたことがある。それは伶佳がある男を使って米国から取り寄せた本を解読させている、という噂だ。


 元々伶佳は国内は勿論海外の稀覯書を集めることに熱心だった。それはある目的のためだと当然方波見家の令嬢であるれいなも知っている。ただ千鳥家はまだそのあたりの機微は判らない。れいなは千鳥家に迷惑を掛ける気はなかった。


 そして勿論嬬森家は西条家の目的を知りそれを手助けしている最有力の華族だった。


 方波見家はまだしも合理主義者の監物が娘のわがまま一つで嬬森家を切り捨てるとも思えない。ただ利用できる内は利用する、ということではあるだろう。


 嬬森家がお咎めなしであれば方波見家への当たりも弱くならざるを得ない。その辺りの事情を押してまでも伶佳の意見が通るとするとれいなではどうしようもなかったのだが。


「菜穂子」


 れいなは自分についているメイドの一人を呼んだ。


「はい、お嬢様」


「少し調べて欲しいことがあるの」


 そういうとれいなは上村菜穂子に細かく指示を出した。


「かしこまりました。少しだけお時間をくださいませ」


「できるだけ早くにお願いね」


「承知しております」


 菜穂子には方波見家の存亡に関わることだと言い含めた。


 方波見家は西条公爵家の派閥の中でも少し特殊な存在だった。表立っては普通の華族でしか無い。ただその実態は西条公爵家配下の情報収集を一手に担っている一族だった。


 その情報網については匹敵するものは特務機関である和田正二郎大佐率いる和田機関くらいだろう。


 火の民や風の一族ですら方波見家の情報網を凌駕していない。


「伶佳お嬢様のご意向の通りに稀覯書の解読が勧めば結果は自ずと付いてくるでしょう。でもその結果を招いたのが我が方波見家だという事を知っていただかなくてはならない。そのあたりが問題か」


 方波見れいなの表情は淑女のそれではなく暗部の棟梁のものだった。


 方波見家でも暗部の棟梁としての職務は既に当主かられいなに移っている。いずれ千鳥家を取り込む予定だが凱史は全く知らないことだっった。


「私も佐島に向かう方がいいのかも知れないわね」


 千鳥凱史の元をできれば離れたくないれいなだったが、それは暗部の棟梁に有るまじき感情であることを痛いほど認識はしているのだった。



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