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第36話「帰ったですって?」

「帰ったですって?」


 伶佳は烈火のごとく憤怒の表情を露にする。


「私に断りもなくあの娘は帰ったというの?」


「申し訳ありません。紗栄子さんはかなり体調を悪くしておられましたので私の判断でお帰りいただきました」


「私は待っているから戻ってこいと紗栄子に伝えていたのに、それを無視したという訳ね。いい度胸をしているわ、紗栄子も、そしてあなたも」


「伶佳お嬢様、本当に紗栄子さんは辛そうでしたので、そのままお嬢様の前には出られないとご遠慮されただけです。どうかご許しを」


「許す?私が何をどう許すと言うの?」


 経過の表情は先程よりはかなり落ち着いてきた。最早怒りに任せた発言ではない。


「私を馬鹿にしたこと?私に断りもしないで帰ったという事は私を蔑ろにしたってことよね」


「滅相もございません、伶佳お嬢様。本日は私共の婚約披露パーティーです。それに免じてどうかお許しを」


「そうだったわね。方波見家と千鳥家だったかしら。両家の今後発展をお祈りしているわ。勿論嬬森家もね」


 言葉と表情からは全く読み取れないが伶佳のはらわたは煮えくり返っていた。三家を絶対に許さないと心に誓っていたのだ。


「では私もここらで失礼しますわ。お父上と未来の旦那様に西条の伶佳がよろしく言っていたと伝えて貰えるかしら」


「判りました。本当に無礼なことをしてしまい、申し訳ありませんでした」


 れいなは平謝りだった。周りの者たちも誰も助け船を出さない。出せないのだ。伶佳の不興を買ってしまったら小さな家なら資金的にも物理的にも潰されてしまう。


 方波見家や千鳥家でも危うい。西条公爵家派閥では一、二を争う嬬森家ですら今の代では距離を置かれてしまいかねなかった。


 伶佳の力、という事ではもちろんないが現当主である西条監物が娘を可愛がっていることは広く知られている。


 その愛娘が三家を排斥するように父に進言すれば、そのまますぐに派閥を追い出されることはないだろうが、徐々に閑職へ追いやられてしまうかも知れなかった。


「大丈夫だった?」


 千鳥凱史に聞かれたときのれいなの顔は青ざめていた。


「ええ、多分。でも今後伶佳お嬢様には気

をつけないと駄目かも知れないわ」


「それは大丈夫じゃないんじゃないか?」


 れいなにとっては凱史は男らしい強い男性だったが西条家を敵に回す度胸は流石にないだろう。


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