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第33話「お久振りね、紗栄子さん」

「お久振りね、紗栄子さん」


 それは西条家の派閥に属している方波伯爵家のパーティーのことだった。参加しないと返事をしていた西条伶佳が突然現れたのだ。


 伶佳が来ない、と聞いていたのでその日所用で来れなかった父の代わりに嬬森紗栄子は方波見伯爵家のパーティーに参加していたのだ。


 そこで後ろから声を掛けられて紗栄子は愕然とした。本来伯爵令嬢の婚約発表パーティーの筈だったのだが、新婦になるはずの伯爵令嬢よりも煌びやかな純白のドレスで伶佳が現れたからだ。


 本来の主役である方波見れいなは紗栄子の一番の親友だった。大人しい性格の紗栄子に対しても他者と隔たり無くつきあってくれる唯一の友人だったのだ。


 紗栄子の親友の婚約発表パーティーと知っていて伶佳は純白のドレスを態々着て来たのだ。勿論方波見伯爵令嬢への嫌がらせではなく紗栄子への嫌がらせだった。


「れ、伶佳様、お、お久しぶりです」


 急に声を掛けられて紗栄子はしどろもどろになってしまう。元々苦手な伶佳相手には最初から普通に話しなど出来なかった。


「今日は太田さんは来ておられないの?」


 伶佳の関心はただ一つ、太田が来ているかどうかだけだった。


「お、太田さんは来られないと思いますが。神戸様も今日は来ておられませんし」


「ふーん、太田さんのことはなんでもよくご存じですのね。自分の男だとでも思っているのかしら?」


「いっ、いえ、そんなことは。ただ普段からよくしていただいていますので」


「よくしていただいているのね。いいですわね、私も太田さんによくしていただきたいものだわ」


 普段ならそんな伶佳を横で止めてくれる祭が今日は居ない。紗栄子は祭の姿を探したが、どこにも見当たらなかった。


「それで太田さんは嬬森家には今でも頻繁に訪れていらっしゃるの?」


「頻繁と言うほどではありませんが、時々来てくださいます。父とのお話もあるようですから」


「嬬森侯爵と?何の話があるのかしら」


「私にはよく判りません」


「それで、そのお父様とのお話が終ったら、太田さんはあなたの相手をしてくれるのね」


「ええ、そうです。少し話し相手になってくださいます。色んな所に行かれるようなので、そのお話とかをお聞きしています」


「へぇ、そうなんだ。ねぇ、太田さんはどうしてウチに来てくださらないのかしら?」


 今日の伶佳はしつこかった。止める祭が居ないからだ。


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