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第28話「困ったものだな」

「困ったものだな」


 事情を報告すると西条監物は肩を落とすようにそれだけを言った。


「いかがいたしましょう旦那様」


「どうもこうもない。そんな言いつけを聞く必要は無い」


「でもお嬢様はそれではご納得なさいませんが」


「うむ、そうだな」


 伶佳の性格は監物も良く知っている。幼いころから甘やかせて育ててしまったのは監物も祭も同罪だった。


 西条家は監物の三代前から始まった新参の華族だった。元は水産加工業の工場主でしかなかった西条家がここまで栄達できたのは現在西条家の奉地とされている港街でのある出来事がきっかけだった。


 監物ですら詳しいことは聞かされては居ないのだが、その三代前の当主が何かと契約しその結果莫大な富を築くに至ったと伝えられている。


 漁は出るたびに信じられないほどの豊漁で戻って来た。それは今でも続いているのだ。


 そして三代前から続いている儀式に問題があった。その儀式を監物の代で終わりにしたい、という願いのため伶佳の行動には制限を掛けて来なかったのだ。


 伶佳は儀式のことは知らない筈だった。ところが自らその儀式を回避する術を探し始めていた。それは監物には不思議でなになかった。


 勘のいい娘、というだけでは説明が付かなかった。西条家の蔵書庫や佐島の別荘の蔵書庫に籠って何かを調べていることは祭から聞いてはいたのだが、その目的が問題だったのだ。


 経過がなぜそこに至ったのか、本人に直接聞いていないので監物にも判らない。ただ伶佳は確実に正解に近づいているように思えた。


 監物が全くて手掛りすら見つけられなかったのに、だ。


 だから監物は伶佳のやることには制限を掛けて来なかった。湯水のごとく金を散財しても、だ。


 最近はでは国内・海外を問わず稀覯書を買い漁っていたことも、直近ではなんとアメリカから人を呼んで稀覯書の解読をさせていることも勿論知っていたが全て許していた。


 監物でも娘は可愛い。息子である秀成や伶佳の妹である香菜子とは伶佳は違っていた。確かに儀式に関りがあるのは長女である伶佳だったからだ。


「神戸家とは、あの神戸家なのだな」


「はい、それち間違いございません」


「そこの使用人だというのか、その太田と言う男は」


「旦那様はご存知だと思っておりましたが」


「確かに太田と言う男は佐島で何回か逢ったことはある。ただ神戸家の、それもあの神戸家の使用人だとは知らなかった」


「そうでございましたか。祭はてっきり旦那様は全てをご存知の上だと思っておりました」


「儂も何でも知っておるわけではない」


 その監物の表情はいつもの自信に溢れたものではなかった。

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