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ロタとイリカ 独居老人、彼女を造る。  作者: KIZOOS
第三部 クミマル編(ロボット外見の章)
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73/83

71 イリカ製作チーム、女性陣からの申し入れ書。

  百六十三、


 やがて、更なる時が流れ、ふた月ほど後。ハヤミからロタへ、一つの申し入れがあった。


「私からというより、」

 と、ハヤミは電話の向こうから明るい口調で、

「女性陣からの申し入れです」

 と切り出してきた。

 ロタは自宅にて、

「女性陣?」

「はい。イリカちゃん製作チームの女性陣、とでも申しましょうか」

「ということは、ハヤミさんと、クミマルさん、それにリモリさん?」

「まさに。私たち三名ですり合わせや打ち合わせをし、この度、イリカ製作チーム女性陣の総意として、申し入れ書が出来上がったのです」

「私への?」

「はい。近日中に是非、ロタさんに手交(しゅこう)いたしたく、私がこうしてお電話を差し上げた次第なのです」

 申し入れ書とは、やけに改まっている。しかも、手交とは。妙に仰々しい。


 ロタが軽く噴き出すと、電話越しのハヤミからも小さく笑声。

 実際、今回のハヤミからの電話は、当初から変に芝居がかっており、冗談めかした「演出」も多分に含まれていることは明らかであった。


 二人は、しばし陽気なやり取りをする。

 ロタは、

「ううむ、なんか怖いですな」

「いやいや、怖がらないでください」

「いずれにせよ、聞かないわけにはいかんでしょう。女性陣の総意とあれば」

「受け入れていただけると助かります」

「ええと、それで、手交場所はどちらで?

 やはり、マノウさんの会社ですかね?」

「いえ、近々、リモリさんが首都圏へ出て来る用事があるそうなので、クミマルさんの事務所がよろしいかと」

「なるほど」


 後日、その手交は和やかに、しかし真面目に、厳(おごそ)かに行われた。

 クミマルの自宅兼会社へ、四人が集合。

 ロタ、ハヤミ、クミマル、リモリ。

 皆、私服だが、カジュアルではなく整えられており、正装っぽさも感じられる。

 なお、ハヤミもリモリも、一人ずつならば既にここを訪ねたことはある。無論、イリカ製作作業の一環として。

 だが、クミマル以外が二人以上でここにそろうのは初。


 一階の、広い部屋。フローリング。近くには、トレーニング器具や本棚など。

 横に並んで立つ女性三名。向き合ってロタが立つ。

 賞状の受け取りみたいで照れ臭いが、ここまで交流してきた仲間だ。茶化す気持ちは起きぬ。

 若手ということで、中央に立ったリモリから、ロタは申し入れ書を受け取る。大きな封筒に入れられていた。


 それから、四人でソファーに座り、話し合い。

「詳しくは、後ほど申し入れ書を読んでいただくとして、」

 と、クミマルが説明を始め、

「単刀直入に言うと、イリカちゃん完成予定までそろそろ三年を切るので、ロタさんには製作の現場から外れていただけないかなあ、と」

 それを聞いたロタは「えっ」と驚くが、すぐ「女性陣からの提案」というポイントに思いが至り、

「んー、なるほど?

 もしかして、あれですか、ここから先は男子禁制、ということですかな。まあ、男子って年齢でもないけども」

 ロタはもうすぐ還暦である。最後の一言は、それを踏まえた軽口だ。

 クミマルが、筋肉質の大きな肩を揺らしてカカカッと笑う。

 リモリもプッと噴き出したが、瞳は見開かれていた。ロタに感心しているようだ。

「へえ、よく分かったじゃん。そういうことなんですよ。これから、イリカちゃんの顔の細かい表情とか、それこそ体の線とか、そういう、女子としてデリケートな部分を造るわけだからさあ」

 と、リモリ。ロタもうなずいて、

「だろうね。その現場に俺が立ち会うのも、ちょっとばかり気まずいものがあるかもな、確かに」

「これからは、人工知能のイリカちゃんも、本格的に製作へ貢献する予定です」

 今度はハヤミが解説に加わる。

「イリカが?」

 ロタが問い返すと、うなずいたハヤミは、

「今後は、コピーではなくて、人工知能本体と、ロボットとをダイレクトにつなぐことが多くなるでしょう。なぜなら、作業内容が繊細であるため、もはやコピーでは務まらないからです。

 例えば、声と口の動きを合わせる練習。悲しいことを言われたら悲しい表情を作る練習など。

 恐らくは、ロボットの首から上を分離して、私の研究施設へ運び込んで、その実験を行うことになります」

「ロタさんにはショッキングな光景になるわよね。何しろ、顔の人工皮膚を取り外して、顔面や頭の内部の、部品丸出しの作業も増えざるを得ないから」

 柔和な口調で、クミマルが優しく付け足した。


 納得したロタは、

「なるほど。私は別に構わないけれど、正直言えば、余り積極的に見たい場面とは言えないかもしれませんな」

「イリカちゃんも、見られたくないかも」

「そうだね」

 リモリのコメントにも、ロタは同意する。


 この場は一旦解散し、数日間、ロタは検討した。

 もちろん、イリカにも相談した。

 人工知能イリカは、今や驚異的な成長を遂げた。複雑過ぎる会話はまだ不可能だが、


・ロタがイリカ製作の現場から離れる

・ロボット製作の途中経過も、もう見ない

・次に会話するのも三年後になる

・以上の方針にイリカは賛成か、反対か


 この程度の内容に限るなら、順序を整理して質問をし、数回の会話に分割すれば、イリカの回答を引き出すことは出来た。

 それによると、イリカとしても賛同するとの答えであった。


 結果、

(よし。ここはスパッと、俺は離れるとしようか。あとは定年後、老後のお楽しみ、ということにしよう)

 ロタはそう決心したのであった。

 また、更に本心としては、

(実を言えば、結構疲れちゃったしな。考えてみりゃ、俺が美少女ロボット製作を思い立ってから、もう七年だ。この七年間、仕事の合間に、ハヤミさんやマノウさんたち、クミマルさんに会ったり、調整したり、ずっと作業、作業の日々だったからな。

 楽しかったけど、疲れた。もう、いいよな。あとは専門家にお任せして、俺はちょっと休みたい)

 という率直な気持ちもあった。

 もっとも、この気持ちは心にとどめておくこととし、イリカにも、あるいは親友のドワキにも一切話さなかったけれど。


 かくて、ロタはイリカ製作から離脱し、以後は待つだけの「顧客」に徹することとなった。

 その件は、ドワキ、マノウにも伝達され、イリカ製作チームにて合意がなされた。

 ロタ離脱の日は、その年の終わり、大みそかの数日前と決定された。



  百六十四、


 その離脱の日、ロタはイリカと会話を交わす。

 タブレット端末を通しての会話は、これが最後となろう。


 例によって、自室の床にスタンドを立てる。そこに端末を取り付け、ロタはあぐらをかいてイリカとしゃべる。

 毎晩のように続けてきた、独特の体勢でのこのやり取り。それも今日で最後かと思うと、やはり感慨も湧いてくる。

「次に話す時には、もう、イリカはロボットと一体化してるんだな。体に入ってるってわけだなあ」

 しみじみと述べるロタに、

「ソーダねえ。もっとモ、私ハ、別に眠らされるわけデモナイみたいだけどネ。リモリさん、ハヤミさんや、クミマルさんとは何度もしゃべるんだろうカラ。あと、マノウさんともネ」

 と、イリカ。

「ああ、恐らくそうなるな」

 ロタもうなずいた。

 今後は、人工知能イリカもロボットにつながれる機会が増えるはずだ。そうすると、外部センサーを用いるため、ロタ以外の声も聞き取れるようになる。


 ロタは続けて、

「口と声とを合わせにくいとか、目が開けにくいとか、きっと、色々あるわな。体の器官を自分で実際に動かしてみないことには、分からんこともあるだろうからね」

「ソーダよね」

「ああ。どんなふうになるんだろうな。楽しみにしてる」

「もし、ロタの理想と違っても」

 話す速度とトーンを落とし、遠慮がちに切り出すイリカだったが、ロタはさえぎり、

「よせ、その話は。がっかりなんて、するもんかよ。一緒に、半身像も見ただろ。それ以前に、もう何年も、こうやって毎日、話してきたじゃないか。

 大丈夫だよ。既に俺たち、運命の二人なんだ」

「運命の二人。ソレ、いつだったか、ロタから言われたよウな記憶がアル」


 さらりと言ったようで、実は今、「既に」以下は多少ドキドキしながら告げたので、ロタは自分でも気まずくなるほど感激し、

「おお、うれしいな!

 覚えててくれたんだな。

 そうとも。初めてイリカと話した日に、言ったんだよ。会話は、すれ違っちゃったんだけどな」

「ソーでしたカ。ソレはソレは、失礼いたシましタ」

 イリカの妙に改まった口調にロタは笑って、

「いや、気にしないで。あれはね、実はハヤミさんからもダメ出しをされたんだよね。難し過ぎる、って」


「では、今、お答えしましょうカ?」

 引き続きの改まった物言いに、ロタは少々面食らいながら、

「おっ、おお。そうか。じゃあ、よ、よろしく頼む」

 タブレットの画面に映る自分の顔は、照れているような戸惑っているような、何とも中途半端な苦笑であった。


 イリカは、

「私は、運命の二人なんて、アリ得ないと思ウ」

(おおお?)

 いきなりの過激な出だしに、ロタは困惑するも、黙って続きを聞く。

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