42 ロタとマノウ、もう一つの重大案件。
百六、
工場内のテーブルにて、四人の話し合いは続いてゆく。今は、主にクミマルとマノウが協議中。
「じゃあ、ロボイリカちゃんの、まずは腕の関節から開発を始めるとしましょ。そうなると、それに併せる形で、腕全体から始めるというのはどうかしら?」
と、クミマルが切り出すと、マノウは柔和に応じ、
「いいかもしれませんね。手順は何かお考えですか?」
「ちょっと思ったのは、この試作第二号は、脚はまだまだ太い感じですけど、腕は、あともう少しで人間並みの細さになりそうですよね」
「人間並みというのは、まあ、褒め過ぎでしょうけれど」
マノウが、遠慮がちにロタへ横目を向ける。暗に、腕だってまだまだ太過ぎるのはちゃんと分かっていますからね、と伝えているようだった。かつての試作第一号お披露目の件が、まだ響いているのであろう。
(そこまで気を遣われるのもなあ)
内心、申し訳なくなり、ロタは、
「いや、クミマルさんのおっしゃるとおりですよ。腕に関しては、だいぶ少女っぽくなったんじゃないかと」
わざと声に出した。若干、リップサービスもあったが。
マノウも、ここは雰囲気の流れに乗ろうと考えたのか、控え目に同調し、
「まあ、そうですね。あと二、三段階細く改良すれば」
クミマルが引き継ぐ。
「ね、ですよね。そこで、今後一定期間でどれくらい腕を細く出来そうかを、マノウさんに計算していただけませんかしら?
時期を区切るのがいいと思うんです」
「分かりました。では、年内というとすぐですから、もう少し先の、きりのいいところで年度内というのはいかがでしょうか」
クミマルは、細い目を更にギュッとつむるような笑顔で、
「いいですねえ。じゃあ、年度内を一区切りといたしましょ」
「はい。それでいきましょう。それから、いかがしますか」
マノウが先を促すと、クミマルは数秒間考えてから、
「そうねえ……。3Dプリンターを使おうかしら」
「3Dプリンター」
マノウが繰り返すと、クミマルは、
「ええ、そうです。まずマノウさんに、ロボイリカちゃんの両腕を、年度内にここまでなら細く出来そうだ、という図面を起こしていただくんですよ」
「なるほど。それを3Dプリンターで……」
マノウは、この一言でぴんときたようだ。
「そういうことです。立体の腕の模型を二セット作り、全く同じ物を私たちで共有します。あとはマノウさんが、主にその内側、機構部分をお造りになる。私は、主に外側の皮膚を造る。
設計図も、3Dプリンターで出した立体も両方共有してますから、離れた場所で別々に作業をしても容易に微調整が可能ですよねえ。で、最後にくっつけるのもスムーズにいくんじゃないかと思うんです」
「良いと思います」
マノウはほほえむ。
ロタとは違い、マノウは余り感情を表に出さない。そのマノウが、はっきりと笑ったのだ。相当の手応えを感じたのだろう。
「いいじゃないですか。3Dプリンターなら、うちにありますよ」
リモリが口を挟む。
クミマルはうれしそうに、
「よかったわ。私も持ってますけどねえ」
こうして、当面の作業工程は固まった。
百七、
また明日、午前中にここへ集合しようということになった。今日はもう遅いし、来たばかりでもあるし、明日、改めて契約や作業の細部を詰めるのだ。
クミマルは、この地へ何日か滞在するという。別件で、プロレス関係の用事もあるそうだ。
その用事の準備をすべく、クミマルは一足先に工場を去る。今夜は、隣町のレスラー仲間の家へ泊まるそうだ。
リモリも、一旦退室。居住スペースはこの工場付近にあるらしい。
こうして、町工場内にはロタとマノウの二人だけが残る形となった。
先ほどのテーブルをそのまま使い、顔を突き合わせて椅子に腰かけた二人。
「さて、ロタさん」
「はい」
互いに真剣な表情。
明らかに、がらりと話題が変わっている。
女性陣二名がいなくなり、室内は急に静まった観もあるが、高揚感はむしろ増している。
本日、クミマルとの顔合わせが済んだ後、この話し合いをすることは、二人の間で事前に決めてあった。
ロボイリカのでき具合を考慮すると、この件を相談するにはまだ早い気もする。
しかし、ロタとマノウの住む場所は非常に遠く、滅多に会えない。今回、成り行きとはいえ、直接話せる機会が出来たのだし、貴重なチャンスを利用しない手はない。
いよいよとなれば、ネットや電話で話し合えば事足りる。だが、微妙な内容。会って話せるなら、やはりそれが一番良い。互いのかすかな表情の変化、場の空気感で、伝わる物もたくさんあるのだ。
そう、今夜はもう一つ重要な「議題」があるのだった。
それは。
「先ほど、リモリが動かすのを御覧になっていたと思いますが、ロボイリカさんの操作方法は、今やコントローラーではございません」
「そうでしたね。ノートパソコンを使われていましたね」
ロタがうなずく。
「さようでございます。つまり、人の手による操作ではなく、あらかじめ組まれたプログラムによって制御が出来るようになりました。
繰り返しますが、もうコントローラーを介さず、つまりレバー等の物理的な道具は必要としません。全て、データ状態のソフトウェアで操作することが可能となったわけです」
ここまでは前置き。
マノウは大きめに息を吸い込み、
「ロボイリカさんを動かすソフトウェアを開発する際には、使うプログラミング言語の選別など、ハヤミ先生と綿密に打ち合わせをいたしました」
「はい」
ロタは淡々と相づちのみ。
概要は既に電話などで聞かされているため、マノウがこの後に何を言うのかはロタにも予測が付いている。
「……」
しかし、ロタはごくりと喉を鳴らした。
マノウは口を開く。
「すなわち、ロボイリカさんを制御するために私が組んだプログラム。一方、人工知能のイリカさん。この二つは、型を一致させてございます。よって、」
マノウは一秒ほど間をあけて、近くのロボイリカを見た。つられて、ロタもそちらを見る。
巨大椅子に座らされ、うつむいたロボット。静止した金色の美少女ロボット。
会話が進むに従い、ロタとマノウの顔からは徐々に笑みが薄れていった。今や、互いに張り詰めた表情である。
マノウは締めくくる。
「もう、お分かりかとは存じますが。ハヤミさんの人工知能と、私どものロボット。二つのイリカさんは、理論上は、もう、いつでもつなげることが可能なのです」




