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ロタとイリカ 独居老人、彼女を造る。  作者: KIZOOS
第三部 クミマル編(ロボット外見の章)
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42/83

41 関節は金属か、シリコーンか。

  百四、


「この試作第二号まではいいとして、次のモデルからは、服を着せてあげてほしいかな。体つきとか、既に結構女の子らしくなってますし」

 先ほどリモリが入れてくれたコーヒーに口をつけ、ロタが切り出す。

 コーヒーはすっかり冷めていたが、かえってうまい。マグカップなので量が多いのもうれしい。というのも、ロボイリカをしばらく見学しているうちに、少し暑くなってきたのだ。

 元々、空気がこもりやすい工場内。加えて、ロボット自体が相当の排熱をしているようだ。


「了解。パンツは履かせる?」

「こらっ」

 リモリの発言を叱るマノウ。クミマルのカカカッという笑声。

 四人の中で、唯一ロタだけが、無言で横目になり、少しうつむいてしまう。

 かわいい女の子のこういう発言は、五十歳を過ぎてもどうも苦手だ。未だに慣れぬ。嫌いだというわけでなく、何か照れてしまうのだ。


「ごめんごめん、ロタさん。別に茶化したわけじゃなくてさ、」

 済まなそうにまゆ毛をハの字にし、リモリが謝って、言葉を区切ったところへ、ロタが「いやいや、いいんだけど」と小声でフォローすると、リモリは先を続け、

「実はね、太ももの継ぎ目のところ、まだ結構段差があってさ」

「段差?」

 クミマルが問う。

 リモリはクミマルにも顔を向け、

「はい。ロボイリカちゃんが立ったり座ったりする度に、脚の付け根が、微妙にずれて戻って、ずれて戻って、を繰り返すんです。

 まだ、部品のかみ合わせが悪いんだと思う。そうするとね、」

 リモリはもう一度ロタと目を合わせ、

「脚に密着させた服を着せると、布がすぐ丸まって、すき間に挟まっちゃうの」

「ええっ、そうなのかい?」

 なぜかマノウが驚いている。

(えっ、マノウさんがリーダーなのに)

 ロタが不思議がり、クミマルも困惑顔。


 三人の視線を集めたリモリは、まず父親のマノウを見、

「ごめん、お父さん。恥ずかしいから黙ってたんだけどさ。実は最近、私もロタさんと同じこと思ったの」

「服を着せたい、と?」

 マノウが、娘のリモリから目線を離し、近くの椅子に座らせたロボイリカを見上げながら尋ねる。

 既に電源を完全に落とされたロボットは、先ほどと同じ姿勢で、下を向いたポーズで座り、静止している。

 「裸」の全身が、部屋の明かりに照らされ、金色に輝いている。

 今の話題のためだろうか、ロタには少々なまめかしくも見えた。まだまだ、腰や胸のラインの一部がかすかに女性らしい程度で、全体的にはゴツゴツした固い外見なのだが。


 そう、まだここは先ほどの町工場内であり、場所は全く移動していない。

 ロボイリカを座らせた椅子のそばへ四角い簡易テーブルを置き、パイプ椅子に腰掛けたロタ、マノウ、リモリ、クミマルが話し合っているのだ。

 マノウの質問に合わせ、リモリもロボイリカの方へ顔を向け、すぐに他の三人へ向き直ってから首肯し、

「そ。何も着てないのはかわいそうかなあって。でね、布の生地買ってきて、腰や脚の寸法も測って、見よう見まねで作ってみたんだけど」

「下着を?」

「はい。でも、今話した通りで」

 口を挟んだクミマルへ答えるリモリ。

「朝夕のメンテナンスの時に、密かに試してたわけか」

 普段の事情を知るマノウが当てる。

「そういうこと。あの時間帯は私一人だしね。

 トランクス型とか、腰に巻くタイプとか、それこそふんどしみたいな形も……まあ、ふんどしが一番うまくいかなかったんだけど。

 で、作って、履かせて、起動してみて、の繰り返し。ダメだったなあ」

「何か……申し訳ないです。そこまでやっていただいて」

 ロタはすっかり恐縮してしまう。

(さっきのパンツ発言に、そこまで深い背景があったとはな。「ちぇっ、下ネタかよ」と一瞬でも思った俺の浅はかさよ)

 ロタは苦笑し、胸の中で言い足した。


 リモリの真摯な姿勢には、毎度頭が下がる。

 クミマルも感心、いや、感銘に近いものすら覚えたらしく、

「リモリちゃん、あなた、いいわよ。すごくいいですよ」

 大きな顔をくしゃっとして、優しく笑う。

「そうですか?」

 真意を測りかねたか、キョトンと目を丸くするリモリに、

「ええ。そういう態度、大事ですよ。機械への適度な距離感ね。ロボットにせよ医療器具にせよ、目的は人間を元気にすることだから。あなたにはそれを実現できる能力が、既に十二分に備わってるわ」

「ありがとうございます」

「私からも」

 リモリ、マノウが、順に礼を述べて会釈をした。



  百五、


 続いて、頭を切り替えたのか、マノウの表情から笑みが消え、プロの真剣な顔つきに変わり、

「機械の開発を先へ進めるためには、何か動機やきっかけが必要な場合が多いんです。といいますのも、最新の理論や技術なんて、ピックアップしていけば幾らでも見つかりますから。

 問題は、どれをどうやって組み合わせるかなんです」


 マノウ以外の者は、真面目に聞く姿勢。

 ここからが本題なのだろうと予感したからである。

 まさしくそうであった。

「今、それを見つけることが出来た気がしています。恐らく、次の扉が開きました」

「扉が?」

「そうです、ロタさん。

 まず、ロボイリカさんに服を着せてほしいとロタさんが御希望された。実はリモリも同じことを考えており、早くも実験までしていた。

 そこへ、この度、私どもへ加わろうとなさっているクミマルさん。クミマルさんの追求するテーマも、機械を通じた人間の幸せや快適さです」

「なるほど」

 と、ロタ。

「つながったかもね、全部」

 クミマルも、納得の顔でうなずく。

「じゃ、これで行きますか」

 ほおづえをついてリモリも同意する。

 リモリの大きな瞳が、ロボイリカの方をクルッと向いて、次にロタを見た。一瞬、目が合った。楽しげな笑顔がかわいらしい。


「リモリが指摘したように、胴体と脚部分のかみ合わせが悪いために服を着せにくいのなら、まずはここからですよね」

 マノウのこの言葉を引き継ぐように、クミマルが尋ねる。

「さっきの動作テストを見て思ったのだけど、太ももに限らず、膝(ひざ)も腕も、関節部分はバネで出来てましたよね?」

「ええ、はい。スプリング状の部品ですね」

「あの部分を、もう少しやわらかい素材で代用できないかしら?」

「例えば?」

「医療用シリコーン樹脂とか。人工関節で研究されてるんですけどねえ」

「シリコーンか……」

 マノウは腕を組んで、ウーンと低くうなる。

 シリコーンとは、ケイ素、すなわち「シリコン」と酸素を骨格として生成されるポリマー化合物。

 形状は、油やゴム、パウダーなど様々に変化し、化粧品や建築等、多岐に活躍する。

 そして、生体適合性にも優れ、古くから医療分野にも用いられている。


 マノウ、クミマルのやり取りは続く。

「シリコーンはそれほど扱った事がないですね。クミマルさんはいかがですか」

「私はよく使いますよ」

「ロボットのあの重量を支えられますかね?」

 マノウの疑問に、もっともだというようにうなずいたクミマルは、

「ええ、今のままでは難しいですね。だから段階的に、まずは負荷の小さな腕から検討してみては。

 腕の関節をシリコーンに取り替えれば、その分、軽くなるはずですから、結果的に下半身への負担も減るでしょう」

「なるほど」

 発言はマノウだが、うなずいたのはマノウとリモリ、同時であった。

 親子の息がぴったりで、ロタはほほえましく感じたが、クミマルのコメントがそれだけ的確だったからでもあろう。


 クミマルのもたらした新たな専門性が、イリカ製作へ早くも変化を及ぼしていることを、ロタは頼もしく見守るのだった。

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