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ロタとイリカ 独居老人、彼女を造る。  作者: KIZOOS
第三部 クミマル編(ロボット外見の章)
39/83

38 ロボットイリカ、試作第二号。

  九十九、


 ロボイリカ、試作第二号。

 サイズ的には通常の人間より相当大きく、パートナーとして生活圏を共にするのは、まだまだ難しそうである。

 例えば、このロボットを連れて街に出たとしても、エレベーターにも列車にもうまく乗れそうにない。

 身長だけならクリアできそうだが、肩や足腰に幅、厚みがあるため、ぶつかったり、つっかえたりするであろう。

 また、室内で共同生活をしようにも、よほどのスペースがなければ、普通に歩かせることも困難であろう。


 だが、第一号と比較すると、印象は見違えるほどに変わり、洗練されていた。

 まず目を奪われるのは、ぴかぴか輝く全身である。何と金色なのだ。

 正確には、やや赤色の混じった金である。


「既に写真や動画で見ましたけど、こうやって直接見ると、やっぱり、この金色がすごいですな。

 昔の外国映画の、名作スペースオペラで、全身金色のロボットが出てきましたよね。よくしゃべるキャラで。あれを思い出します」

 ロタが小さく笑いながらコメントすると、クミマルも、

「そうですねえ。まあ、あのロボットは細くて頼りない感じもありましたけどねえ。

 私は、国産の特撮テレビ番組を連想しましたわ。あれは金ではなく、銀色でしたけどねえ。ビルより巨大で、怪獣と戦う宇宙人」

「三分しか戦えないヒーロー?」

「そう、そう」

 二人は顔を見合わせてほほえむ。子供時代を懐かしむように。

 ロタも納得し、

「言われてみれば、似てますな。目も似てますし。あの特撮ヒーローは、光る大きな目が付いてましたからね」

 ロタの言うとおりであった。

 今度のロボイリカには、だ円形の透明の目が、二つ取り付けられていた。

 目はかなりの大きさだ。大人が、両手の指を組み合わせて輪っかを作ったくらいのサイズである。


 マノウが背後から口を挟む。

「今、お二人がおっしゃったキャラクター、両方、リモリにも言われましたよ」

「お若いのに、御存じなんですね。世代的には、リアルタイムでは見てないはずですけど。まあ有名ですからね」

 後ろを振り向き、ロタが答えた。

「続編も撮られてますしねえ。息子も小学生まで見てましたよ」

 マノウを見下ろし、クミマルも述べた。


 それから、クミマルはロボイリカへ更に近付き、じっくりと観察を始める。

 横顔からは笑みが消え、眼光が鋭くなっていた。

「そばで見ると、やっぱり大きい。結構ごついわねえ」

 というクミマルのコメントへ、ロタは言う。

「でも、一号よりだいぶスリムになりましたよ」

 フォローしたわけではなく、それは一目瞭然であった。クミマルもそこには異存がないようで、

「ええ、もちろん、その点はそうですよね」

 ロタが質問をかぶせる。

「クミマルさん、ロボイリカの写真とかは事前に御覧になってないんですか?」

「一応、資料写真と動画は一通り見ましたよ。以前の一号も、この二号もね。ビジネスとして依頼を受けるわけですものね。そこは、ちゃんとしないと。

 でも、あんまり熱心に見るのはやめました」

「なぜです?」

「第一印象として、自分が直接見た感覚を大切にしたかったのよ」

「なるほど」


 しばらくの沈黙。

 クミマルは、ロボイリカの周りをしゃがんだり立ったりしながら、じっくり眺め回していた。


 ロボイリカの試作第二号は、一号を改良した物で、パーツの大部分は引き継がれている。

 椅子も、同じ物を流用。

 かつては一号が座っていた例の物だ。ロボイリカ用の、金属製の巨大椅子。

 その椅子のそばを、クミマルが歩き回る。

 クミマルは元女子プロレスラーであり、体が大きく、近くをちょっと動き回るだけで、見る者の視界へ強引に映り込んでくる。迫力が違うのだ。

 無論、部屋の空間を占めている体積は、ロボイリカが上回る。胴回りも含め、体の厚みもロボットが勝る。

 また、現時点でこそ、クミマルはロボイリカを見下ろしてはいる。が、もしロボットが立ち上がれば、ロボットの方が長身のはずだ。

 にもかかわらず、決して見劣りしないのである。

 天性の体格と、鍛えられた肉体、鍛練や試合でまとわれてきた存在感が、恐らくそう見せるのであろう。


(「私はロボイリカに似ている」か……)

 ふと、ロタは、先日のクミマルのセリフを思い出していた。今のクミマルの姿を見ているうちに、

(あのセリフには、相当な重みがあったのだな)

 と、改めて気付かされたロタであった。


 これまで、イリカ開発に関わってきた人物は、理屈や理論が先行するタイプの者ばかりだ。ロタ自身もそうだし、ドワキ、ハヤミ、マノウ、リモリ、皆が当てはまる。

 しかしながら、クミマルは明らかに違う。

 先に体が動くタイプだ。それも、数々の苦難や修羅場に裏打ちされた体。

 その全身を資料として、ロボイリカの改良に貢献してくれようとしているのだ。新風を吹き込むどころか、イリカ製作を全く別次元のステージへと押し上げてくれるかもしれない。思想的な物も含めて。


 しゃがんで、ロボットを前からも後ろからも観察していたクミマルは、立ち上がって体をまっすぐ伸ばすと、マノウの方へ顔を向け、話しかけた。

「私は試作第一号の現物は見てなくて、写真や動画でしか知りませんけど、確かに驚異的な進歩ですよね。

 統一感が素晴らしいですわ。色も、ピンクゴールドっていうのかしらねえ、一色でまとめられていますし」

「ありがとうございます」

 マノウが柔和に頭を下げる。


 クミマルのコメント通りであった。統一感。まさしくそれに尽きる。

 ロボイリカの試作第一号は、まるで金属の箱(胴体など)や太パイプ(腕・脚など)や球体(頭部)、骨格や部品を組み上げたつぎはぎのような外見であった。

 統一感どころの話ではなく、左右非対称で、歪んでいて不格好であった。

 ところが、この二号は違う。

 左右は対称であるし、頭から脚までのデザインも安定的だ。骨格や配線が露出しているのも、わずかに首や脚の付け根のみ。

 そして、今、クミマルが指摘した体の色だ。

 手先や足先、顔などを除き、全身は桃色がかった金色。光沢は弱めで、光は余り反射していないが、キラキラした華やかな眺めだ。

 頭部は縦に長くなっており、うりざね顔。上半分も丸く、頭髪のたぐいは全くない。

 顔面は、クミマルの顔より一回り大きい。

 胴体は、まだまだ、縦置きの巨大直方体と称した方が実態に近い。分厚い壁だ。だが、腰に女性らしいくびれが入っている。

 バスト部分にも、下品にならない程度に、滑らかな二つのふくらみが施されている。

 女性を模したロボットであることを、明確に主張しているのだった。

「いいじゃない。なかなかセクシーよ。あなた、素敵な女性になるわ」

 クミマルが、ロボットの首元から肩の辺りを、分厚い手のひらでするりと撫でながらつぶやいた。いたわるような優しい目つきで。が、口元は一切笑っていない。

 クミマルが触れた部分が、鏡のようにクミマルの手を映していた。


 ロボットの腕と脚も、前回より細くなったとはいえ、ごつくて、まだまだ人間のものとは似ても似つかぬ。

 だが。

「手首から先は、相当いいんじゃない?

 人間ぽいですよ。ねえ?」

 クミマルが首を回し、ロタを、次にマノウを見ながら同意を求める。

 ロタがうなずき、マノウは礼を述べる。

 確かに、手はリアルに出来ている。色はベージュ。マノウの事前説明によれば、プラスチック素材。

 五本指の形や長さの比率は、人の手に似せてある。例えば、親指が独立していたり、中指が長かったり。手首や指の関節は、小型の車輪状の部品でつながれている。


「手、つかんでみていいかしら?」

「ええ、どうぞ」

 クミマルに、マノウが許諾をした。

 座った姿勢のロボイリカの前に立ち、クミマルは少しかがんで、右手でロボットの右手を持ち上げる。

 ロボイリカの手は、甲を上にして、太もものすぐ外側、椅子の座面の上に置かれていた。

「あら、柔らかいのね。本物の腕みたい」

 クミマルが驚き声を上げた。

 ロボイリカの右手首は、クミマルに持ち上げられると、手首がぐにゃりとスムーズに曲がった。ひじの関節も滑らかだ。

「人間工学や解剖学に基づいて造ったつもりです。現時点で可能な範囲で、ではありますが」

 マノウが、ちらりとロタの方にも目をやりつつ解説すると、クミマルは、

「御謙遜を。既に、十分すごいですよ。私、たくさんの人の手を取ってきましたもの。プロレスのリングでも、整体でもね。

 少なくとも、関節の曲がり方、柔らかさは相当正確ですよ。素晴らしいです」


 クミマルは、持ち上げたロボイリカの右腕を、浮かせた状態で止め、握手するようなポーズを取る。

 ロボットの顔はうつむいているため、後頭部を見下ろすような形ではあるが。

「クミマルです。よろしくね、イリカちゃん」

 静止して無言のロボイリカへ、クミマルが語りかけた。

 ロボイリカの手も、頭部同様、クミマルより優に一回り以上は大きく、まともな握手は難しい。だが、クミマルは自分の左手も添え、両手でロボットの右手を包む。

 知らず、ロタは見とれてしまう。

 優しい光景であった。

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