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第2話「歓談シーカー」

 世の中には、人の数だけ思惑が溢れている。



 世の中には、人の数だけ恋の種類がある。愛の種類がある。



 人にはそれぞれ、絶対に譲れないものがある。

 それは目に見えるものであれば、そうでないときもある。



 え、僕?

 僕の譲れないもの、それは百合。つまりはガールズラブ。

 さらに言えば僕は、そういうものの第三者であることに強いこだわりを持っている。自分は蚊帳の外から、少女たちが愛を確かめ合い、求め合うのを静かに眺める。それはもう、「興奮する」の一言に尽きる。



 そんなある日、僕は黒スーツの美少女に半ば強引に勧誘され、不思議な団体に所属することになった。

 どうやらその団体は、百合だけの世界を創るために日夜活動しているらしい。

 しかしそこは、目的のためなら強盗や殺人も厭わないクレイジーな百合少女たちが取り仕切るような、社会的にはアブナイ組織だった。



 そして僕たちは、己の欲求のために今日も他人を傷つける…………。




 ◆




「…………もう朝か…………」



 今にも再び閉じそうなまぶたを気合いでこじ開けながら、手探りで携帯のアラームを止める。そのまま伸びをして体を持ち上げ、昨日ハンガーに掛けて準備しておいた服に着替える。



 僕たちの組織では一部のメンバーを除いて、決まった起床時間は設定されていない。まあ、あんまりにもだらだらとしていると変身した事務部長が起こしに来るらしいけど。



 そうそう、このブレスレットもつけないと。

 組織のメンバー全員に配布されているこれにはICチップが組み込まれていて、一種の個人認証装置として機能しているらしい。ブレスレットから組織のメインサーバーへと装着者の血圧や脳波などの健康データを送信した上で顔写真やコードネームと本名、所属部署などの個人データと結びつけることで、その人物に最も適した仕事を指示するための参考にできるのだとか。なんという最先端技術。



 身支度を済ませて持つべき荷物を持ち、僕は個室から廊下へと続く扉を開けた。




 ◆




 僕が向かった先は食堂。一応施設の売店で食べ物は売られているけれど、僕は基本毎日ここで食事をとる。

 僕が今日の朝食として選んだのは、ハムエッグのサンドイッチ、トマトときゅうりのサラダ、それと牛乳。

 ここの食事は売店で売られている物も含めて、全て医療部の指導のもとで生活部の人たちが作っている。これがとても美味しい。さらに言えば、注文を受け付けてくれた人が可愛い女の子だともっと嬉しい。美味しさが跳ね上がる。



 さてと、座るトコ座るトコ…………あ、あった。

 唯一空いていた席のテーブルを挟んだ向かいにはすでに人が座っていたが、混んでいるのだから、この際仕方がない。

 僕は、黒いうしろ髪を二本に編み込んだ少女に声をかけた。



「すみません。相席してもいいですか?」


「…………」


「あの、相席…」


「いいっすよ!」



 こちらに気づいた彼女はしばらく僕の顔をじっと見つめたあと、弾けるような笑顔で了承してくれた。

 大きくつぶらな瞳は人懐っこそうで、いまどきの仔猫のような印象の女の子だった。

 …………あんまり、僕と同じような百合の雰囲気はしないけど、どうしてこんな所にいるんだろう。

 食事を進めながら、情報収集がてらに聞いてみた。



「あの…………おなま」


「名前っすか? 私はMs.ブラックアウトっす! 諜報部に所属してるっすよ!」


「あ、僕はMs.シーカーです。今は監察部にいるんですけど、来週から事務部に異動になりました」


「ほえー。辞令出されるなんて、何か悪いことでもしたんすか?」


「いや、特に心当たりが無くて…………勧誘された理由なら、あるんですけどね…………」


「…………何やってたんすか?」


「…………盗撮、です。百合シーンの」


「あー、いい趣味してるっすねー。…………突然っすけど、女の子の下着には何が詰まっていると思うっすか?」


「え…………妄想の欠片…とか?」


「なかなかひねった答え方をするっすねー。…………ズバリ、『夢とロマン』っすよ!」


「…………あ、もしかして」


「お察しの通りっす。私は、現役下着泥棒っす。若い女の子限定の。いやー、自分ではバレてないって思ってたんすけどねー。うっかり御用になりそうだったトコロを、組織に拾ってもらったんすよー。…………まぁ、スカウトマンは少々怖かったっすけど…………」


「スカウトマンって…………大三日月流勿(おおみかづきるな)さん? 確か、コードネームはMs.アルテミスっていう…」


「あ、Ms.シーカーさんもあの人だったんすか。いやー、体の曲線美と時折見せる恐ろしい言動がナイスミスマッチっすよねー」


「そうですよね。…恋人とか、いるんですかね?」


「恋人はいないらしいっすけど、人事部長にはゾッコンっす。Ms.アルテミスさん、人事部長の秘書と側近を兼任しているんすよ?」


「人事部長!?」



 人事部長。その役職名は組織に入る時に受けた教習訓練で聞いたことがあった。この組織の最高位に立つ人物で、部長職が集まった「評議委員会」を束ねている。なんでも、すっごく可愛いらしい。そんな人事部長と大三日月さん…いやいや、Ms.アルテミスさんが情事を繰り広げたら…………良い画が撮れそうだ。



「いやー、私も二人の下着が欲しくて何度か部屋にアタックしようと企んだんすけど、そもそも部屋の場所がわからなかったんすよ…………あ、通信っす。ちょっと待っててくださいっす」



 そう言って立ち上がった彼女は、ブレスレットを使って誰かと話しているようだ。

 しばらくして、彼女が戻ってきた。



「すまねぇっす、仕事が入ったんで抜けるっす。Ms.シーカーさんもがんばってくださいっす。それじゃあまた」


「あっはい!」



 こうして僕たちは、それぞれの職務へと戻っていった。

 …………あ、朝ごはん食べ終わってない。


 


 ◆




 Ms.シーカーとMs.ブラックアウトのふたりが談笑していた頃、食堂近くの廊下では、右手で杖をついた中年男性と、髪を後ろで結わえ、黒いスーツを纏った少女が、偶然にも鉢合わせていた。



「おや、アルテミス君じゃないか。ガイア君は一緒ではないのかね?」


「委員長は今、手が離せないらしくてな。それで、ちょっとしたお遣いを頼まれていてその途中だ。…そういえばこないだのサエキアカネの件だけどな、アレなんだよ、必殺フルスロットルって」


「この口調に変えてから、妙にカタカナ語を混ぜて喋りたくなってしまっているんだよ。スタート・アワ・ミッションとか、イグザクトリィとかね」


「知るかよ」



 中年男性ののほほんとした回答に、少女は舌打ち混じりに返した。



「…ところで、その話で思い出したのだが…君は『エイチャー』について、ガイア君から何か聞いていないのかい?」


「エイチャー? …ああ、ボスが言ってた別の次元世界や時間軸にいるっていう戦士のことか。…いや、詳しくは聞いてねぇなぁ。つか、それがなんだってんだよ」


「……いや、なんでもないよ。それじゃあ、グッドラック!」



 少女が首を傾げるが、彼は適当に挨拶をして、その場から立ち去っていった。



「…一体なんだったんだよ」



 彼の奇妙な質問が多少気がかりではあったが、少女はその後ろ姿をただ黙って見送っていた。




 ◆




『千鶴っ、いる? って、これ、どういうこと?』

『ん、理想? まあいいや。こいつどうにかしないと帰れないし、千鶴も探しに行けないし』



 以前出会った女の声が、回廊を歩く中年男性、Mr.サンクスマンの脳裏に蘇る。



「あの声…『ちづる』という名前…。今までは気にしていなかったが、あれはまさか…。…少し、調べてみるとしようか…」



 回廊には彼の足音と、杖をつく音のみが反響していた。

どうも、壊れ始めたラジオです。


今回も、Ms.シーカーこと鹿追凌子(しかおいりょうこ)が登場しました。彼女はなるべく、物語の語り手として出したいのですけどね…なにぶん、組織内での地位が低くて立ち回れる場所が少ないものでして…。そして、今回も伏線を散乱させる始末…ちゃんと全部矛盾なく回収できるのかな…。とはいえ、たとえ時間がかかってもちゃんと完結させるつもりですので、今後ともよろしくお願いします。


それでは。

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