第84基音:水上都市ポリフォニア
魔導都市フォルテを発ったアルトとカノンは、広大な海原を渡る魔導列車と定期船を乗り継ぎ、ついに目的の海域へとたどり着いた。
海の水平線の彼方、陽光を浴びて白銀色に輝く巨大な影――それこそが、水上都市『ポリフォニア』だった。
幾重もの円環状の浮体構造物が幾何学模様のように連結され、その中心には深海ダンジョンへ向かうための巨大な昇降施設や、ギルドの監視塔がそびえ立っている。無数の船が出入りする港湾区からは、人々の活気ある声や、潮風に乗って微かな汽笛の音が響いていた。
「わあ……すごいですね、アルト様! 海の上に、まるでひとつの大きな街が浮かんでいます!」
カノンは嬉しそうに目を輝かせて海の上の大都市を見上げる。
アルトもまた、波の干満や都市全体の構造物が発する微細な固有振動に耳を澄ませながら、静かに頷いた。
「ああ。都市を支える浮体や防壁の波長も、細かく計算されて組み上げられている。……だが――」
アルトの目が、都市のさらに足元、紺碧の海が不気味に黒く淀んでいる深海へと向けられる。
「都市の土台を支える魔導脈のあちこちに、不快なざらつきが混じっているね。連中の仕掛けた『ノイズ』が、すでにここまで影響を及ぼしているらしい」
パルスを懐に宿したアルトがそう呟くと、胸元から微かな共鳴音が返ってきた。まるで臨戦態勢に入ったかのように、パルス自身もわずかに熱を帯びている。
「私たちを待っているのは、あの海の底のダンジョンですね」
カノンがふっと表情を引き締め、アルトの隣にしっかりと並び立つ。その紫の瞳には、恐れではなく、アルトと共に進むという強い決意の色が宿っていた。
「行こう、カノン。ポリフォニアのギルドに挨拶を済ませたら、さっそく深海の底へと潜るぞ」
「はい、アルト様!」
新たな拠点・水上都市ポリフォニアに降り立った二人。
不協和音の影を断ち切り、世界の魔導脈の乱れを正すため、いよいよ深海ダンジョンへの挑戦が幕を開けようとしていた。




