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第81基音:新たな旋律と導き

ギルドマスター室へと戻った三人。重厚なデスクの前に座り直したバトンは、手元に広げた一枚の特殊な海域図を指し示した。

「さて、立証は十分すぎるほど済んだ。ここからは、我々ギルドが掴んでいる『不協和音の影』の最新情報と、君たちに動いてもらいたい案件について話そう」

バトンは鋭い眼光を地図の一点へと落とした。そこにしるされていたのは、大洋の中央に浮かぶ巨大な水上都市と、その真下に広がる底知れぬ深海エリアだった。

「連中は今、世界各地の魔導脈やダンジョンの要所に、特殊な『ノイズ』を打ち込む工作を急ピッチで進めている。目的は、世界全体の魔力循環を狂わせ、大地そのものを崩壊させることだ。……そして直近で、最も危険な反応が観測されたのがここだ」

バトンが指し示した先――それは、幾重もの巨大な浮体構造物と船団が連結して作られた輝く水上都市、そしてその都市の直下に口を開ける、永久に光の届かない『深海ダンジョン』だった。

「奴らの手先が、すでにその深海ダンジョンの最深部へと潜り込み、海底魔導脈の根幹に巨大な不協和音を仕掛けようとしているという情報が入っている。ダンジョンの魔物たちはすでに異常な狂乱を見せ、いつ水上都市ごと水圧に呑み込まれて壊滅してもおかしくない極限状態だ」

バトンは顔を上げ、アルトとカノンを真っ直ぐに見据えた。

「アルト、カノン。君たちに頼みたいのは、その水上都市を拠点として『深海ダンジョン』へ赴き、都市の危機を救うとともに、水底に潜む『不協和音の影』の気配とノイズを完全に『調律(解除)』してくることだ」

バトンの言葉に、カノンはパッと表情を輝かせ、嬉しそうに胸を張って誇らしげに言い放った。

「ふふっ、なんだか少しワクワクしちゃいますね……って、わかりますか? 私たちにとっては新婚旅行です!」

「――なっ……!?」

バトンは豪快にむせ返り、手元の書類をバラバラと落としそうになった。

一方のアルトは、カノンの爆弾発言をいつものように軽くスルーし、ごく自然に首を傾げる。

「新婚旅行? いや、バトン様。僕たちはあくまで『不協和音の影』の調査と、都市の異変を解決する任務で――」

「もう、アルト様ったら……」

カノンがふっと柔らかく微笑み、嬉しそうにアルトの腕にそっと自分の腕を絡めて寄り添う。

その時、不意にカノンからの体温と、真っ直ぐすぎる信頼の込められた紫の瞳が間近に向けられ、アルトはわずかに言葉を詰まらせた。

「……でも、アルト様と一緒に行く旅路なら、私にとっては本当にそんな風に大切な時間なんです」

「っ……――」

不意打ちの真剣な言葉と甘い雰囲気に、アルトはいつもの穏やかなペースを少しだけ乱され、わずかに耳たぶを赤く染めて視線を逸らした。

「……はは。……そうだね、カノン。君と一緒なら、どんな危険な場所でも……悪い気はしないさ」

どこか照れくさそうにぼそっと返したアルトの様子に、カノンはさらに嬉しそうに花を咲かせたような笑顔を浮かべる。

その噛み合っているようないないような、甘い空気を目の当たりにして、バトンは額の汗を拭いながら盛大に頭を抱えた。

「……そ、そうか。若いというのは素晴らしいことだな……! おいアルト、世界を救うついでに、その初心なところもどうにかしてやれ!」

バトンの呆れ混じりの苦笑いを背に受けながら、アルトは少し気恥ずかしさを隠すように、静かに依頼書を受け取った。

「はい。引き受けます、バトン様。世界を乱す不快なノイズも、水底を荒らす連中も……暗い深海の底から残らず綺麗に調律してきましょう」

アルトの揺るぎない覚悟と、そんな彼の不意の照れ顔に胸をときめかせるカノンの四対の光翼の気配。

こうして、不協和音の影を追うための、水上都市と深海ダンジョンを舞台にした新たな旅路――名実ともに甘く激しい二人の旅が、こうして始まろうとしていた。

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