第8基音:新しい目標
商人マルコの魔導馬車を見送った俺たちは、手に入れた金貨二枚と銀貨を手に、ハーモニアの街中へと足を進めた。
「金貨二枚あれば、しばらくは良い宿に泊まれそうだな」
「アルト様と……同じ部屋に……っ!? ああ、これは事実上の新婚生活の始まりということですね……! 覚悟はできております、アルト様!」
「勝手に新婚生活にしないで!? ツインの部屋にするだけだから!」
相変わらず思考が極端なカノンになんとかツッコミを入れながら、俺たちは大通りから一歩入った場所にある落ち着いた雰囲気の宿屋『フェルマータ亭』へ向かった。
◇
受付で金貨を出すと、店主の女将さんは目を丸くしながら部屋の鍵を手渡してくれた。
「はいはい、最上階の広めツインルームをご用意したよ。二人とも仲良くお使い」
「ありがとうございます」
部屋に入ると、海が見える大きな窓と、清潔なベッドが二つ並んでいた。
荷物を置いた俺は、ベッドに腰掛けて自分の冒険者プレート(銅プレート)を取り出し、ステータスを確認してみる。
【名前】アルト
【職業】雑用調律師
【レベル】1
【スキル】『調律』
「うーん……やっぱりレベルは【1】のままだなぁ」
俺がつぶやくと、隣にそっと寄り添ってきたカノンが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「アルト様、何か気がかりでも?」
「いやさ、ダンジョン最最深部にいた双頭のデカい狼いたじゃん? あいつを退治した時も、レベル上がらなかったなって思ってさ。まあ、あいつメンテナンス不足で勝手に爆発して崩壊しただけだし、俺が倒したわけじゃないから経験値が入らないのは当然なんだけどね」
「(……あのような神話級の災厄『魔狼グランガルム』を指パッチン一つで波長ごとリセットし、爆発消滅させたというのに……『勝手に爆発した』と思い込んでいらっしゃるなんて。あぁ、どこまでも無欲で尊い……っ)」
カノンは胸の前で手をギュッと握りしめ、うっとりと頬を赤らめている。
「まあ、俺は相変わらずレベル1の雑用係だし、地道に頑張るしかないか。……よし」
俺はポケットからマルコ商人にもらった木札を取り出した。そこには綺麗な意匠で『マルコ商会・カデンツァ本店』と刻まれている。
「商業・学術都市『カデンツァ』……か」
「アルト様、その都市へ行かれるおつもりですか?」
「うん。でもせっかく交易都市ハーモニアに来たんだ。まずはこの街でじっくり冒険者ランクを上げて、旅費と実績を蓄えてから向かおう」
「はい! アルト様のお考えの通りに。ハーモニアでの冒険も、全力でお供いたします!」
ぎゅっと拳を握りしめて気合を入れるカノン。相変わらず頼もしいパートナーだ。
「よし、明日は朝イチでギルドに行って、ハーモニアでの初仕事を探すとしよう!」
俺たちは『フェルマータ亭』で旅の羽を休め、明日からのハーモニアでの本格的な活動に思いを馳せるのだった。




