第78基音:ギルドマスターの試練
重厚な木製の扉を叩くと、奥から低く落ち着いた声が響いた。
「入れ」
アルトとカノンが足を踏み入れたギルドマスター室は、壁一面の書棚と各地の地図に囲まれていた。デスクの奥から立ち上がったのは、幾多の死線を潜り抜けてきた風格を漂わせる巨漢――ギルドマスターのバトンだった。
「受付から話は聞いた。転移トラップで最深部の古代遺跡へ飛ばされたそうだな。して、重大な発見とは何だ?」
「単刀直入にお伝えします、バトン様」
アルトは静かな仕草で、懐から『原初の調律具』を取り出し、デスクの上へと置いた。
「俺たちが飛ばされた深層は、かつて世界を正調させていた『調律師』の古代遺跡でした。そこで俺たちは、失われた調律師の役割と天翼種に関する真実、そしてこの『原初の調律具』を発見したんです」
「なに……? 『調律師』の遺産だと……!?」
バトンの鋭い眼光が厳しく細まる。アルトは落ち着いた丁寧なトーンで言葉を続けた。
「はい。ですが……その裏で、世界を揺るがす不穏な気配も感じました。世界を崩壊させようとする悪意の存在を感じます」
アルトの言葉に、バトンは深いため息を吐き、腕を組んだ。
「……やはりか。実はな、君たちが言うまでもなく、ギルド上層部でも不穏な噂は把握している。『不協和音の影』――そう名乗る謎の犯罪組織が、世界各地のダンジョンや魔導脈に不快なノイズを打ち込み、暗躍しているという報告が各地から届いていてね」
「ギルドマスターも、すでに知っていたのですね」
「あぁ。世界規模で不協和音を撒き散らす危険な連中だ。……だが、アルト。君たちの報告は信じるが、その組織に関わる案件を取り扱うとなれば話は別だ。レベル1の調律師である君が、本当に『不協和音の影』の手先や危険な事態に対抗できるだけの実力を持っているのか……正直、疑わざるを得ん」
「疑われるのは当然だと思います。……では、どうすれば納得していただけますか?」
「簡単なことだ。誰もいない地下修練場へ来てもらう。君たちの力……俺が直接見させてもらおう」
バトンは重厚な身体を起こし、壁際の鍵棚から地下修練場の鍵を取り出した。
余計な噂や混乱を避けるため、誰もいない地下修練場へと場所を移し、アルトとカノンの真価を見極める試練が始まろうとしていた。




