第74基音:概念調律
パチンッ……!
乾いた高音が聖域全体に響き渡る。
その瞬間、巨兵が振り下ろした大剣と全身から撒き散らされていた黒紫色の不協和音が、まるで時間が停止したかのようにピタリと静止した。
俺の指一撃から放たれたのは、カノンの圧倒的な高出力魔力を極限まで澄ませ、正調の旋律へと昇華させた絶対的な同調波。
「――不協和音の蓄積による過熱、および構造回路の波長破綻。……解体・初期化を開始する」
俺の覚醒した眼には、巨兵の巨体を蝕んでいた不協和音がどこにどう絡まり、どのような波長で存在しているかが完全に可視化されていた。
ただ破壊するんじゃない。
万物の波長を操作し、不要な不協和音の結び目だけを指先一つでピンポイントに解いていく。
キィィィィン……ッ!
巨兵の全身を覆っていた黒い斑点が、澄み切った光の波動によって一瞬で分解され、空中に霧となって散散していく。
『ギ……ギギ……ッ!? 音波ガ……構造ガ……解体、サレ……ッ!?』
不快な金属擦過音を立てていた巨兵の駆動音が、みるみるうちに美しく滑らかな重奏へと書き換えられていく。巨兵の体内に閉じ込められていた膨大なノイズが完全に押し流され、本来の静寂と和音が聖域を取り戻した。
そして――。
シュゥゥゥゥ……
ノイズから解放された巨大な結晶の重装巨兵は、俺たちに感謝するように深く頭を下げると、役割を終えたかのように粒子状の綺麗な光となって解け、聖域の純粋な魔力へと綺麗に還元・解体されていった。
「ふぅ……よし。歪んだ波長の解体と初期化完了だ」
「あ……あぁあ……ッ!!」
胸のつかえが取れた俺が息を吐くと、背後から俺を抱きしめていたカノンが、絶句したように黄金色の瞳を見開いていた。
「アルト様……今のは……今のは一体……!? 敵の攻撃どころか、あの古代兵器の構造そのものを……指の一撃で『解体』して還元してしまわれたのですか……ッ!?」
「あぁ。長年手入れされてなくてノイズのゴミが詰まって暴走してたからな。不協和音の波長を解いて解体してあげたんだ」
「指を鳴らすだけで解体……ッ! あぁ……アルト様……! 本当に、なんて恐ろしくも美しいお力……! 世界のあらゆる不協和音も大魔法も、アルト様の前ではただ解体される運命にあるのですね……ッ!」
「俺としては、目の前の波長を正しい形に整えただけなんだがな」
過剰なまでに瞳を輝かせるカノンの熱い視線を受け止めながら、俺は静かになった祭壇の最奥へと視線を向けた。
ノイズの巨兵が解体された祭壇の中央。
そこには、神々しい金色の光を放つ一本の小さな音叉――『原初の調律具』が、俺たちの訪れを待つように静かに宙に浮いていた。




