第71基音:古代の記録装置
キィィィィン……
回廊全体を包み込む透き通った重奏。回転を深める漆黒の石碑から解き放たれた金色の光が、広場の中央で一筋の柱となって天へと昇り、宙に巨大な『魔導譜面』のような立体陣を描き出した。
「アルト様、お下がりください! 敵対的な魔導反応であれば、この私の一撃で――」
「待ってくれ、カノン。大丈夫だ……敵意なんてどこにもない」
俺は静かに手をかざし、広がる光の粒子へと意識を傾けた。
覚醒した俺の『調律』が、その光が発する波長を自然と読み解いていく。光の粒子は文字や映像の断片へと姿を変え、俺たちの脳内へ直接言葉として響き渡り始めた。
『――来たるべき正調の継承者へ。我らは原初の調律者』
厳かでありながら、どこか懐かしい温もりを帯びた声。
『かつてこの世界は、膨大なる魔力の奔流と不協和音によって常に崩壊の危機に瀕していた。我ら調律師の使命は、世界の脈動を正し、溢れ出るノイズを抑え込んで万物の調和を維持することにあり』
宙に映し出されたのは、巨大な世界の歪みを指パッチン一閃で鎮め、世界樹や巨大魔導脈の波長を整えていく古代調律師たちの姿だった。
「世界樹の波長すら……調律していたのか……?」
『……されど、時代の変遷とともに原初の術式は失われ、後世の測定器は単一の属性魔力量という極めて浅薄な尺度でのみ、生命を測るようになった』
映像が切り替わり、現代の冒険者ギルドで使われているような魔導測定器の構造が立体的に浮かび上がる。
『全属性と世界の波長そのものを内包し、統括する調律師の「原初魔力」は、単一の測定器においては「どの属性にも属さぬ激しい雑音」として弾かれる。ゆえに、真なる調律師の器を持つ者は、世界のシステムにおいて必ず【測定不能=LV1】と判定される宿命にある――』
「……そういう、ことだったのか」
胸のつかえが、すっと降りていくのが分かった。
追放されたあの日、ギルドの測定器で『LV1』『無能の欠陥職』と吐き捨てられた俺のステータス。
能力が低かったからじゃない。俺の体に満ちていた力があまりにも膨大で、かつ世界の波長そのものを統括する特殊すぎるものだったからこそ、現代の不完全な測定器ではノイズと判定されるしかなかったのだ。
「アルト様……ッ」
隣で話を聞いていたカノンが、激しい怒りと愛おしさに肩を震わせ、俺の腕を強く抱きしめてきた。
「なんという愚か……! アルト様の偉大なる力を理解できず、あのような不当な評価を下して追い出した無能どもめ……! 今すぐ地上へ戻り、あのギルドの者どもを一人残らず灰に変えてやりたいくらいです……ッ!」
「落ち着いてカノン。でも……これで納得がいったよ。俺が欠陥品じゃなかったって分かっただけで、十分だ」
「アルト様は欠陥どころか、この世界で最も尊く、美しく、絶対的なお方です……! あぁ、本当に……本当によかったです、アルト様……ッ!」
涙ぐみながら俺の胸に顔をうずめ、擦り寄ってくるカノン。その背中を優しく撫でながら俺が苦笑していると、宙に浮かぶ古代の石碑が、さらに深く、怪しい光を放ち始めた。
『――継承者よ。汝の傍らに佇む「絶対の光」を見よ。調律師と天翼……不滅の絆の記録を開示する』
石碑の光が形を変え、新たな古代の記憶を映し出し始めた。




