第67基音:無音の檻
「――『封音の連坑』の調査クエスト、ですね。受注を承りました」
フォルテの冒険者ギルド。受付嬢は手元に提示された俺のステータスカードに視線を落とすと、少し心配そうな表情を浮かべた。
「あの……アルト様、表記が『LV1』となっておりますが、お間違いないでしょうか……? 封音の連坑は浅層こそ難易度が低いものの、魔導波長の乱れから特殊なトラップも報告されているダンジョンです。お一人での踏破は少々危険かと……」
「大丈夫です、今回は強力な同行者がいますから」
「はい! アルト様の安全は、この私がお命に代えてもお守りいたします! 冒険者ギルドごと消し飛ばすような事態にはいたしませんので、ご安心ください!」
可憐な微笑みを浮かべつつ、妙に穏やかじゃない決意を口にするカノン。受付嬢は「えっ……?」と引きつった笑みを浮かべていたが、ギルド証の発行を滞りなく済ませてくれた。
調律師という特殊職ゆえ、世界のシステム上はただの『LV1』扱い。今後の拠点生活や活動のためにも、まずは簡単な調査クエストで実績とレベルを少し上げておきたかったのだ。
◇
翌朝、俺たちはフォルテ近郊に広がるダンジョン『封音の連坑』へと足を踏み入れた。
薄暗い岩肌に覆われた連坑内には、かつて鉱山として栄えた面影と、魔導波長を吸い取って静発光する結晶が無数に連なっている。
「アルト様、足元にお気をつけください。万が一にもお怪我などされたら、私はこのダンジョン全体を即座に物理消滅させてしまいますので」
「物騒すぎる配慮をありがとうカノン。大丈夫だ、これくらいなんともないよ」
「ぷしゅ〜(鼻高々に前方警戒するパルス)」
連坑に入り、俺が息を整えた、その時だった。
カチリ、と足元で嫌な音が響く。
「……トラップ!?」
「アルト様――っ!?」
咄嗟にカノンが手を伸ばしてきたが、発動したのは古代の『空間転移』。眩い光に包まれ、視界がぐにゃりと歪む。
「アルト様ぁぁぁーーーッ!!」
カノンの悲痛な叫びが遠ざかり、俺が叩きつけられたのは、異様なほど静まり返った黒銀の密室だった。
連坑の最深部――『無音の部屋』。
「なっ……なんだここ、音が……響かない!?」
直後、暗闇から同時に現れたのは、巨躯を誇る【深層魔導ゴーレム】と【漆黒の連頭蛇】。
俺は即座に指を構え、かつてグランガルムを解体した時のように澄んだ指パッチンの音波を直接ぶつけて爆散させようと、勢いよく指を鳴らした。
パチンッ!
――だが、音そのものが生み出されず、外部へ音波を解き放つことができない。
この部屋の壁と空間そのものが、俺が鳴らそうとした音の振動と魔力をすべて『吸収』してしまうのだ。
「そんな……音が届かない……!?」
ドガァァァンッ!!
ゴーレムの太い腕と連頭蛇の巨躯が同時に襲いかかり、俺の身体を壁へと叩きつける。激痛。肺の空気が弾き飛ばされ、口から朱が漏れた。挟み撃ちの形で迫る、死の爪牙と巨大な顎。
外部に音をぶつける調律が殺される以上、攻撃も防御も通用しない。
死の足音が、すぐ目の前まで迫っていた――。




