第64基音:調律師を惑わす過剰なる愛着
公園をあとにした俺たちは、フォルテでも指折りの露店や商店が集まる賑やかな大通りへと向かった。
色とりどりの雑貨や魔導具が並ぶ店先を眺めていたカノンが、ふと足を止める。彼女の視線の先には、透き通るような結晶ガラスの中に、揺らめく小さな光の粒子が封じ込められたペアの小瓶チャームが飾られていた。
「アルト様……このチャーム、お互いの魔導波長に反応して、優しく光るのだそうです」
「へえ、綺麗だな。前に買った髪飾りも似合ってたし、これも買っていこうか」
「……アルト様、お言葉ですが『これも買おうか』などという生ぬるい認識では困ります」
「え?」
カノンが真顔で俺の袖を掴んだ。……いや、掴むというより、服の布地ごと俺の腕を力学的に完全固定してきた。元S級兵器の出力が発揮され、袖がメリメリと悲鳴を上げている。
「これは単なる装飾品ではありません。私の魔導波長とアルト様の波長を常時動的同期させる、実質的な【魂の契約書】です! 一つはアルト様、もう一つは私が保持します!」
「重い! 発想が重いし腕の締め付けが痛いカノン!!」
「もしこの小瓶の光がコンマ一秒でも弱まれば、私はアルト様に生命の危機が訪れたと判断し、地球の裏側まで全速急行します。ですから……私に、あなたの存在を物理的にも概念的にも刻み込ませてください!」
(トトトトトトトトトトト……ッ!!!)
胸元のコアからは爆音のような超高速の甘い共鳴音が鳴り響き、周囲の露店に飾られた魔導ガラスたちが「ビンビン」と激しく共振し始めた。
「ぷしゅあああああッ!?(高周波の共鳴に耐えかねて目が回るパルス)」
「カノン! 落ち着け、街中のガラスが割れる!! コアの出力を下げろ!!」
「不可能ですアルト様! 今の私はアルト様への愛着係数が限界値を突破しており、出力制御機能が完全に麻痺しております! これもすべて、私をこんな『異常状態』にしたアルト様の責任です!!」
顔を真っ赤にして湯気を吹き出しそうな勢いなのに、言っていることは理路整然とした大暴走。カノンはそのまま俺の腕に全力で抱きついてきた。もはや抱きつくというより、関節技のキャメルクラッチに近い強固さだ。
「さあアルト様、このチャームを私の首元に装着し、生涯私から離れないと宣言してください! 拒否権は存在しません!」
「重い! 感情も物理的な力も全部重い!! 離せとは言わないから、とりあえず腕の力とコアの音量を半分にしてくれ!!」
不協和音を調律するのが俺の仕事だが――この可愛らしくも暴力的なまでの激重デレ波長だけは、いくら調律器があっても全ッ然足りそうにない。




