第62基音:賑わいの街
魔導都市フォルテの宿に荷物を下ろした翌日。
激闘の疲れを癒やすため、俺たちは丸一日街で羽を伸ばすことにした。
宿のホールへ降りてくると、待っていたカノンが少し照れくさそうに上目遣いで俺を見つめてきた。戦いから解放された彼女の表情は実に柔らかい。
「アルト様……こうして二人でお出かけするのは、少し緊張しますね……」
「ああ。だけど今日は戦うことも、難しいことを考えるのも禁止だ。ゆっくり街を楽しもう」
「はい、アルト様!」
俺が微笑むと、カノンの白い頬がほんのり朱に染まり、胸元のコアがトクトクと可憐な共鳴音を刻み始めた。
「ぷしゅー! ぷしゅー!(楽しそうにカノンの頭の上で跳ねるパルス)」
俺たちは活気あふれるフォルテの大通りへと繰り出した。
露店からは香ばしい焼き串や甘い果実の香りが漂い、大道芸人の奏でる賑やかな音楽が響いている。普段は凛としているカノンも、今日ばかりは目に入る露店の食べ物に興味津々だ。
「わぁ……美味しそうな香りがします。アルト様、あの『魔導焼きハニーパン』というのは何でしょう……?」
「食べてみるか? 一つ買って分けよう」
出来立てのハニーパンを一口頬張ると、カノンの瞳がパッと輝いた。
「ふあ……っ! 温かくて、甘くて……とっても美味しいです……! アルト様、あーんしてください!」
「えっ、あ、ああ……」
無邪気にパンを差し出してくるカノンにタジタジになりながらも、口に運ぶ。甘い蜜の味が口いっぱいに広がると同時に、目の前で嬉しそうに微笑むカノンの姿に、俺の心も優しく満たされていくのだった。
兵器としてではなく、一人の少女として生きる時間。
この穏やかな日常を守るためなら、俺はどんな不協和音だって調律してみせる——心からそう思える、愛おしい時間が流れていく。




