第60基音:光の差す地上へ
長い静寂を破り、俺たちは古代魔導炉の竪穴を登り、崩落の痕跡が残る大図書館を通って地上へと帰還した。
廃都アリアを覆っていた薄暗い紫色の雲はいつしか霧散し、雲の隙間から暖かな太陽の光が降り注いでいる。
「……眩しいですね、アルト様」
カノンが眩しそうに目を細め、胸の前でそっと手を重ねる。その表情には、もう過去の狂気や悲哀の影はなく、澄み切った柔らかな微笑みが浮かんでいた。
「ぷしゅー! ぷしゅー!」
パルスも太陽の光を浴びて気持ち良さそうに身体を伸縮させ、ポカポカとした波長を振りまいている。
「ああ、綺麗な空だ。……カノン、体調はどうだ? 限界突破調律の負担は残ってないか?」
「はい。アルト様の調律の余韻が、今も優しくコアを満たしてくれています。……こんなにも心が軽いのは、生まれた時以来かもしれません」
カノンは自らの手を見つめ、静かに握りしめた。
かつて街を滅ぼし、兵器として畏怖されたその手。だが今は、俺の手を握り返し、共に未来へと歩むための『人の手』だ。
「フォルテシモを倒し、アリアの真実も分かった。……ここでの戦いは、これで終わりだな」
「はい。ヴァンの件も、フォルテシモの不協和音も……私たちは乗り越えることができました。すべて、アルト様が私を信じてくださったおかげです」
カノンは胸元のコアにそっと手を当て、晴れやかな笑顔を俺に向けた。
「よし、それじゃあ行こうか。俺たちの旅は、まだまだこれからだ」
「はい、アルト様! どこまでも……あなた様と共にお供いたします!」
爽やかな風が廃都の瓦礫を吹き抜け、俺たちの背中を優しく押し出す。
激闘を乗り越え、俺たちの絆はより強く、より深く結ばれた。
『不協和音の影』の残党や、世界に潜む歪みとの戦いはこれからも続くだろう。だが、揺るぎない絆とこの温かな旋律がある限り、俺たちはどんな道でも迷わずに歩んでいける――。




