第58基音:閉ざされた記憶の扉
静寂を取り戻した『古代魔導炉』の最深部。
青く静かに明滅する記録装置の前に、俺とカノンはゆっくりと歩み寄った。
「アルト様……」
カノンの指先が、小さく震えている。
過去の暴走、フォルテシモの揺さぶり、そして四対の光翼による死闘――。フォルテシモを倒したとはいえ、ここに記録されているのは数百年前、彼女が『三号体』としてこの都市を壊滅させた凄惨な真実そのものだ。
「怖いか?」
「……はい。ですが、逃げたくはありません。どんな罪が記録されていようと、私はそれを受け止めたいのです。アルト様が……私の心を取り戻してくださったから」
カノンは胸元のコアを固く握りしめ、前を見つめた。
「よし。一緒に見よう」
俺がカノンの手に重ねて装置の操作パネルへ触れると、古代の魔導文字が幾重にも浮かび上がり、青い光が空間全体にホログラムとなって広がった。
——『警告:極秘データ[アリア壊滅手記]の再生を開始します』
機械的なアナウンスと共に映し出されたのは、数百年前の平和だった都市アリアの姿。そして、突如として天を覆った『不協和音』の黒雲だった。
「これは……!?」
映像の中で暴れていたのは、カノン一人ではなかった。
『不協和音の影』の先代幹部たちが都市の魔導炉を暴走させ、狂気のノイズで街全体を汚染していく。その中で、兵器として起動されたカノン(三号体)は、防衛プログラムと不協和音の相反する命令の挟み撃ちに遭い、狂乱の渦中でただ都市を壊滅させるための「起動核」として利用されていたのだ。
「カノンが……一人で壊したんじゃない……!」
『影』の手によって狂わされ、意図的に暴走させられた記録。そして何より、都市が完全に崩壊する直前、三号体は自らの意思で『自己封印』を選択し、これ以上の被害を防ぐために数百年の眠りについたという事実が、データとして鮮明に刻まれていた。
「私……私は……街を守ろうとして……封印を……?」
ホログラムの光芒の中で、カノンの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「そうだ……! カノンは最初から、心を持とうとしていたんだ。兵器として利用されながらも、最期まで抗っていたんだよ!」
俺は涙を流すカノンを強く抱きしめた。
「ぷしゅーーーーッ!!」
パルスも二人の周りを光りながら旋回し、祝福するように温かな旋律を打ち鳴らす。
数百年前の呪縛は、今ここで完全に解き放たれたのだった。




