第57基音:不協和音の終焉
「グガァァァァッ……!? 馬鹿な……! 私の不協和音が……古代魔導炉の絶望の波長が……消されていく……だと……!?」
四対の光翼から解き放たれた極限の閃光が、フォルテシモを包む黒紫の巨像を一瞬で霧散させていく。
かつて街を滅ぼすために振るわれた殺戮の威圧感は、アルトの調律と重なり合ったことで、すべてを優しく包み込んで浄化する神聖なる旋律へと昇華していた。
「フォルテシモ……! お前も過去の呪縛に囚われた犠牲者なのかもしれない。……だけど、誰かの心を踏みにじり、過去の傷を穿ち続ける旋律を、俺は絶対に認めないッ!!」
「私を……否定するかッ! 兵器でありながら、兵器であることを捨てた貴様らに……何が分かると言うのだぁぁぁッ!!」
狂乱したフォルテシモが、残された最後の力を振り絞り、亀裂の入った指揮棒を突き出してきた。
だが、その突きはあまりにも脆く、そして遅かった。
「私には……分かります」
カノンの瞳に迷いはなかった。
黄金と紫の光を纏った一閃が、閃光の中で美しく空間を切り裂く。
——シャキィィィンッ……!!
「ガ……ッ!?」
フォルテシモの手から指揮棒が零れ落ち、甲高い音を立てて石畳で砕け散った。
胸元の紫色の魔導結晶が破裂し、彼の機械躯体からブシュゥゥ……と黒い煙と不協和音のエラー音が漏れ出す。
「見事だ……三号体……。だが……忘れるな……。『不協和音の影』の奏でる滅びの旋律は……ここで終わりではない……」
フォルテシモの身体がゆっくりと膝をつき、最下層の暗闇の中へと崩れ落ちていく。
「さあ……行くがいい……。お前たちが求め……そして……この都市を滅ぼした『真実』の元へ……」
消え入るような捨て台詞と共に、敵幹部フォルテシモの不気味な気配は完全に途絶えた。
「はぁ……はぁ……っ……!」
空間を埋め尽くしていたどろりとした毒素が引き、古代魔導炉には静寂が戻る。
カノンの背中から広がっていた四対の光翼が、幾多の光の粒となって優しく空気中に溶けていった。
「アルト様……終わりました……」
振り向いたカノンは、安堵から膝の力が抜け、そのままアルトの胸の中へと倒れ込んできた。
「ああ……よく頑張ったな、カノン」
倒れそうになる彼女の身体を優しく抱きとめ、髪を撫でる。
「ぷしゅ……(安堵したようにアルトの肩で丸くなるパルス)」
フォルテシモという脅威は去った。しかし、彼の最後に指し示した中央の記録装置は、今も静かに青い光を点滅させ、二人の訪れを待っていた。




