第56基音:天唱の翼
「バ、バカな……! 兵器に過ぎぬお前たちが、この私の『不協和音』を押し返してくるだと……!?」
フォルテシモの仮面が激しい旋律の衝突に耐えかね、メキメキと亀裂を刻んでいく。
「調律師……! そして欠陥品の三号体ッ! 過去の原罪から目を背け、ただの人間気取りで私に抗おうなど……身の程を知れぇぇぇッ!!」
フォルテシモが叫ぶと、魔導炉の底からどろりとした黒紫色の不協和音の奔流が噴き上がり、彼の体を包み込んだ。巨像のごとき異形のノイズ塊と化した彼が、空間全体を叩き潰すような絶望の波動を撃ち出してくる。
「アルト様、私の後ろへ……!」
「いいや、カノン。もう一人で抱え込ませはしない!」
俺はカノンの背中にそっと手を添え、己のすべてのマナを、そして絆のすべてを彼女のコアへと注ぎ込んだ。
「響鳴の鉱山で放ったあの輝きを……俺たちの本当の旋律を、今ここで解き放つんだッ!」
——その瞬間。
カノンの胸元に宿る2つのコアが、かつてないほど高く、美しく澄み渡った鈴の音のような共鳴音を奏でた。
かつて【響鳴の鉱山】で敵を圧倒し、サンダードラゴンすら反撃の隙を与えず気絶させた——あの神話級の威圧感。
カノンの背中から、眩いばかりの純白と金色の光で織りなされた四対の光の翼が、溢れ出るように広がっていく。
「な……ッ!? 馬鹿な、古代の記録にあるあの姿……『光翼の殺戮神』だと……!?」
フォルテシモの驚愕の悲鳴が空間に響く。
かつて鉱山を包み込んだあの極限の閃光が、今度はこの薄暗い『古代魔導炉』を一瞬で白銀の世界へと塗り替えていく。神々しく羽ばたく四対の翼から放たれる圧光は、魔導炉に満ちていた毒素や不協和音のノイズを、触れるそばから一瞬で消滅させていった。
「アルト様が……私に翼をくださいました。破壊のためではなく……あなたと共に未来へ進むための、この翼を!」
「ぷしゅーーーッ!!」
パルスが翼の光を受け止め、その威力を空間全体へ拡散させる共鳴陣を展開する。
「行こう、カノン! フォルテシモの呪縛を破るぞッ!」
「はいッ! 『調律協奏曲』——参ります!!」
四対の翼から解き放たれた極限の神聖なる閃光が、黒紫の巨像と化したフォルテシモを真っ向から包み込んでいった――。




