第54基音:最下層『古代魔導炉』
浮遊感を伴う落下の直後、激しい不協和音の残光とともに、俺たちは地下深くに眠る巨大な空間へと着地した。
そこは幾重もの巨大な魔導回路が蠢き、赤紫色の忌々しい光を放つ最下層『古代魔導炉』。空間の中央には、数百年前の惨劇を今に伝える巨大な記憶記録装置が静かに佇んでいた。
「くっ……アルト様! お怪我は……ッ!?」
正気を取り戻したカノンが、真っ先に俺の肩の傷口へ手を添える。その瞳には涙が溢れ、震える指先から愛おしそうに治癒の波動が注ぎ込まれた。
「大丈夫だよ、カノン。浅い傷だ……君の心が戻ってきてくれて、本当に良かった」
「アルト様……私、私……! あなた様をこの手で傷つけてしまうなんて……!」
「自分を責めないでくれ。悪いのは……俺たちの絆を壊そうとした奴だ」
「……ハハッ! 見事な愛の劇場だな、調律師!」
闇の中からゆっくりと歩み出てきたフォルテシモは、指揮棒で中央の記憶装置をコンコンと叩いた。装置が重い音を立てて起動し、周囲に数百年前の凄惨なホログラム映像が浮かび上がる。
血に染まった都市、逃げ惑う人々、そして――無慈悲に刃を振るい、街を焦土へと変えていくかつての『三号体』の姿。
「見よ! これがお前の真実だ、三号体! 幾千の命を奪い、叫びを嘲笑った破壊神の姿! いくら調律師の愛を囁こうが、お前の根底に刻まれた殺戮の記憶は消えはしない!」
カノンは浮き彫りになる過去の映像に息を呑み、恐怖で身体を強張らせる。
だが、俺は逃げずにその映像を直視し、力強くカノンの手を受け止めた。
「確かに、過去に起きた惨劇は消せないかもしれない。……だけどな、フォルテシモ」
俺はカノンの前へ踏み出し、胸元のソニアの加護とパルスの増幅波長を最高潮に高めた。
「今のカノンが流す涙も、俺を傷つけて痛む心も、偽物なんかじゃない! 過去が兵器だったとしても……今のカノンは俺の調律に応えてくれた、かけがえのないパートナーだッ!」
「アルト……様……っ!」
「くだらん……どこまでも不愉快な男だ! ならばその言葉ごと、この魔導炉の不協和音で肉片に変えてくれる!!」
フォルテシモが邪悪な笑みを浮かべ、胸の魔導核を全開にして空間全体の毒素を吸収し始める。魔導炉全体が紫色の狂気と化し、最終決戦の幕が切って落とされた――。




