第53基音:命懸けの調律
「カノン……ッ!!」
暴走したカノンの腕から滑り出た鋭利な刃が、紫電を纏って容赦なく俺へ振り下ろされる。
——ドスッ……!!
刃先が俺の肩を浅く貫き、鮮血が伝い落ちる。
冷たかった出会いの頃の機械的な斬撃とは違う。今の彼女の波長からは、己の過去に対する「恐怖」と「絶望」、そして俺を傷つけたくないという悲痛な叫びが激しく伝わってきた。
「ガあ……あッ……! アルト……様……私を……壊してください……ッ!!」
「くっ……痛く……ない……! こんな痛み……君が一人で抱えてきた数百年の絶望に比べたら……!!」
俺は肩の激痛を無視し、そのままカノンの身体を正面から強く抱きしめた。
「ぷしゅーーッ!!」
パルスが命を削るように全身を黄金色に輝かせ、彼女から溢れ出る凶悪なノイズを必死に押し留める。
「馬鹿な……!? 暴走した三号体の攻撃を正面から受けて耐えているだと!?」
高笑いしていたフォルテシモの仮面の奥で、初めて焦りの色が走る。
「カノン……君が過去にどんな惨劇を引き起こしていようと……俺を助けてくれた君の温もりは本物だ! 兵器としての君じゃない……俺が愛したのは、人間らしく笑う君の『心』だッ!!」
胸元のソニアの加護が、俺の叫びに呼応して眩く咆哮した。
俺はカノンの手を包み込むようにしながら、彼女の胸元――血のように濁った2つのコアへ、直接己の手を叩きつける。
——パチンッ!!
『限界突破調律』
己のマナの全量を注ぎ込んだ純白の光波が、彼女の全身の回路へと逆流していく。フォルテシモによって打ち込まれた邪悪な不協和音を撃ち砕き、カノンの心の奥底へと直接俺の音色を響かせる。
「あ……ぁ……アル……ト……様……」
カノンの瞳に、ゆっくりと澄んだ紫色の光芒が戻り始める。指から力が抜け、刃がカランと音を立てて床に転がった。
「な……不協和音の強制共鳴が、打ち破られた……だと!?」
フォルテシモが驚愕に目を見開いたその瞬間、激しい余波によって大図書館の床が完全に崩落。俺たちとフォルテシモは、最下層『古代魔導炉』を包む底知れぬ闇へと一気に落下していった――。




