第51基音:同類(へいき)の嗤笑
フォルテシモが振り下ろした黒い指揮棒から、紫色の巨大なノイズの爪が解き放たれ、凶悪な旋律とともに俺たちへ襲いかかってきた。
「ぷしゅーーッ!!」
「切断調律!!」
パルスの増幅を受けた俺の金色の光線が、間一髪で襲い来る紫の爪を空中で撃ち落とす。激しい波長の衝撃波が大図書館の石畳を揺らし、周囲の本棚を豪快に吹き飛ばした。
「くっくっく……やはり口先だけではないようだね、若い調律師」
フォルテシモはせせら笑いながら、トントンと自らの胸元を指揮棒の柄で叩いてみせた。
——カチリ、と重く硬質な金属音が大図書館に響き渡る。
そのタキシードの隙間、襟元から覗いたのは生身の皮膚ではなかった。不気味な紫色の魔導結晶が幾重にも埋め込まれた、古代の機械躯体。
「なっ……お前も……魔導兵器……!?」
「そうだ。私も君と同じ『古代の遺物』だよ、三号体。かつてこの都市を焦土に変えた殺戮計画の同調者であり、同じ戦場に投下された『兵器』の一型さ」
不気味な紫のノイズが指揮棒の先から渦を巻き、大図書館の空間全体を徐々に侵食していく。
「数百年前、このアリアを一夜で壊滅させたあの絶望の夜……君の圧倒的な破壊の輝きは実に美しかった。だが、都市と共に封印され、目覚めたと思えば……ハッ、反吐が出るよ。ただの調律師に甘やかされ、人の心を真似事のように宿して満足しているとはね!」
「あ……ぁ……ガ……ッ!?」
フォルテシモの胸のコアから放たれる『不協和音の波長』が、カノンの記憶回路と激しく共鳴する。同型の魔導兵器だからこそ、直感的に、そして容赦なく届いてしまう殺戮の波長。それがカノンの自我を内側から激しく苛んでいた。
「過去にどんな惨劇があろうが、お前が同じ兵器だろうが関係ない!」
俺は膝をつきそうなカノンの前に完全に立ちふさがり、金色の調律の光を一段と強く解き放った。
「カノンの過去がどうあれ、今のカノンが誰かを想い、泣き、笑う心を持っていることに変わりはない! 俺が調律してきたのは……カノンの本当の『心』だッ!」
「ハッ、哀れな感情ごっこだな! ならばその調律ごと、奴の根底に刻まれた『殺戮の原罪』で破棄してやろう!!」
同型機ゆえの恐ろしい精度で、フォルテシモの紫のノイズが、カノンのコアの奥底に秘められた真の『記憶データ』へと直接襲いかかろうとしていた——。




