第50基音:守るための誓い
「くっくっく……どうだね? 自分がただの殺戮機械だったと思い出す気分は」
フォルテシモはせせら笑いながら指揮棒を振り上げ、カノンの心を痛めつけるように紫色のノイズ波長を強めた。
「あ……ぁ……ガ……ッ! アルト……様……私……私は……っ!」
頭を抱え、床に伏して激しく震えるカノン。胸元の2つのコアが不気味な暗赤色に濁りかけ、エラー音が悲痛に響き渡る。
(そうだ……カノンは最初、俺に危害を加えようとする者を容赦なく排除しようとする『兵器』そのものだった……)
出会った頃の記憶が頭をよぎる。感情が乏しく、ただ命令に従い、俺を守るためなら躊躇なく敵を抹殺しようとしていたかつての彼女。
(でも……今のカノンは違う!)
俺の手を取り、温もりに涙し、ヴァンたちの死に心を痛め、俺の傷ついた心に寄り添ってくれた。俺の『調律』に触れ、俺の隣にいることで、カノンは少しずつ……間違いなく『人の心』を獲得してきたのだ。
「いい加減にしろ……フォルテシモッ!!」
俺はカノンの前へと躍り出ると、広域調律の温かな金色の光を全身から放ち、敵の放つ邪悪なノイズを力任せに押し返した。
「ほぅ……『兵器』を庇うかね、調律師。奴の本質は人を屠るための毒だぞ?」
「カノンの過去がどうあれ、今のカノンが誰かを想い、泣き、笑う心を持っていることに変わりはない! 俺が調律してきたのは……カノンの本当の『心』だッ!」
「アルト……様……?」
背後で、カノンの途切れ途切れの声が聞こえる。金色の調律の光が彼女を包み込み、濁りかけていたコアの輝きを静かに押し戻していく。
「カノン、思い出してくれ! 俺たちが一緒に過ごしてきた時間を! 君が俺にくれた優しさを! 君は壊れた兵器なんかじゃない……俺の大切なパートナーだ!」
俺は胸元のソニアの加護を強く握りしめ、フォルテシモに向けて指先を突き付けた。
「カノンの心を……俺たちの絆を踏みにじるお前を、絶対に許さない!」
「ぷしゅーーッ!!」
パルスも俺の肩で全身の魔力を膨らませ、不協和音に対抗する共鳴波長を全力で打ち鳴らす。
「ハッ、哀れな感情ごっこだな。ならばその絆ごと、過去の呪いで砕いてやろう!」
フォルテシモが指揮棒を振り下ろすと、大図書館の闇から大量の不協和音の残滓が集まり、巨大な爪となって俺たちへ襲いかかってきた――。




