第5基音:新たな響きを求めて
「ふぅ……服も整ったし、お腹もいっぱいになったな」
拠点都市『アコード』の大通り。
買い食いした串焼きを満足そうに口に運ぶと、隣を歩くカノンが幸せそうに目を細めた。
「はい、アルト様。この『肉』という食べ物も、アルト様と一緒に食べるとより一層美味しく感じられます」
「いや、肉は普通に美味いものだけどね? でも喜んでくれてよかったよ」
国宝級の【星紡ぎのドレス】に身を包んだカノンは、すれ違う誰もが思わず振り返るほど美しい。
本人はそんな周囲の視線など一考だにせず、俺の腕にぴったりと寄り添い、愛おしそうに上着の袖を握りしめている。
「さて……これからどうしようか」
俺は街の喧騒を見渡しながらつぶやいた。
元々、この『アコード』にはSランクパーティー『銀翼』の雑用として滞在していただけだ。追放された今、俺をこの街に繋ぎ止めるものは何もない。
「アルト様、何か気がかりでも?」
「いや、追放されちゃったからさ。この街にいても気まずいし、どこか別の街にでも移動しようかなって」
「アルト様が行かれる場所なら、どこへでもお供いたします。世界の果てであっても」
「んー、そうだ、交易都市『ハーモニア』なんてどうだ? 道具や食材が集まる大きな街らしいし、俺の『調律』の仕事も探せるかもしれない」
「アルト様のお考えの通りに。ふふ、二人旅ですね……っ!」
うっとりと頬を染めて胸の前で手を組むカノン。
……相変わらず重めのデレだけど、一人で街を出るよりずっと心強い。
「よし、決まりだ! 街道が混む前に出発しよう」
◇
その頃――アコードの冒険者ギルド本部は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。
「おい、救護班を出せ! Sランクの『銀翼』がダンジョン中層で壊滅寸前だぞ!!」
「宝剣が粉々に砕けただと!? ミリアの魔導杖まで暴走して大火傷だって!?」
「一体どうなってるんだ……あの『銀翼』が、ただの中級魔物相手に惨敗するなんて……ッ!」
ギルド内に飛び交う悲鳴と怒号。
自分たちの装備が壊れた原因も分からず、命からがら逃げ帰ってきたヴァンたちは、プライドも装備も全てを失って床に倒れ伏していた。
優秀な調律師を自分たちの手で追い出し、二度と手遅れな状態へ陥ったことすら、彼らはまだ気づいていない。
そんなギルドの惨状など――俺たちの耳に届くはずもなかった。
「じゃあカノン、行こうか」
「はい、アルト様!」
『アコード』の大きな門をくぐり抜けた俺たちは、一度も後ろを振り返ることなく、眩しい太陽が照らす広大な街道へと足を踏み出していた。




