第48基音:共鳴の調律
「いかせますわよ……ッ! 『プラズマ・ボルト』!!」
カノンの両手から放たれた深紫色の高圧電流が、薄暗い大広間を眩しく引き裂いた。
まっすぐに撃ち出された雷撃は、逆位相ノイズを撒き散らしていた中央の石旋盤へ正確に着弾。バチバチと激しい火花が散り、配管が爆ぜて古代文字の明滅が唐突に途絶えた。
「グアァァッ!?」
空間を支配していた反響音が消え失せ、守護獣が不快そうに身悶えする。
「よくやった、カノン! パルス、一気に増幅だ!」
「ぷしゅーーッ!!」
パルスが体を限界まで膨らませ、俺の体内に眠るマナと波長を極限まで引き上げる。広間を覆っていた不協和音の残滓が、俺の手元に集まる金色の光によって急速に押し返されていく。
調律の邪魔をする仕掛けは、もう何もない。
「ヴァンたちの時のような過ちは……二度と繰り返さない!」
俺は胸元のソニアの加護に深く意識を集中させ、冷酷な破壊でも、力任せの衝突でもない、純粋で澄み切った波動を指先に宿した。
ターゲットは守護獣の肉体ではない。
胸元でドクドクと脈動し、巨体を狂わせている『紫の魔導結晶』――その核となる不協和音の波長のみ。
――パチンッ!
『精密貫通調律』
一筋の金色の光線が、夜空を駆ける流星のように一直線に伸びる。
守護獣の巨大な石の爪をすり抜け、狂暴な咆哮をあげる顎の隙間を通り、胸元の紫結晶へと寸分違わず突き刺さった。
「――ガ、ァ……?」
激しい爆発は起きない。
金色の光が結晶に染み込むと同時に、ドロゴロと響いていた邪悪な脈動音がピタリと止まる。紫色の不協和音は澄んだ光の波長に包み込まれて急速に浄化され、一粒の無色透明なガラスくずとなってさらさらと砕け散った。
核を失った巨大な守護獣は、狂気を失った静かな石像へと戻り、そのままゆっくりと膝をついて崩れ去った。
「ふぅ……うまくいった……」
激しい緊張から解放され、俺は軽く膝をつきそうになる。すかさず駆け寄ってきたカノンが、俺の身体を優しく抱き止めてくれた。
「アルト様! 見事な調律でございましたわ……! 暴走していた核だけを浄化し、無用な破壊を起こさないなんて……」
「カノンが旋盤を壊してくれたおかげだよ。……怪我はない?」
「はい。アルト様からいただいた温かな音色が、私を守ってくれましたから」
カノンは胸元のコアを愛おしそうに撫でながら、俺の頬をそっと両手で包み込んだ。その紫色の瞳には、俺に対する深い信頼と、抑えきれない愛おしさが満ち溢れている。
「ぷしゅ〜♪(安堵してふたりに擦り寄るパルス)」
「ありがとう、パルス。……よし、この広場を抜ければ、いよいよ遺跡の『中層』だ」
旋盤が破壊されたことで、大広間の奥にある巨大な石扉が、重い音を立ててゆっくりと開き始めていた。
その先から漂ってくるのは、これまで以上の濃密な不協和音の気配――そして、カノンの過去を紐解く古代の記憶の匂い。
俺たちは深く頷き合い、さらに暗き遺跡の深層へと足を進めたのだった。




