第47基音:仕掛けられた音律
幾重にも立ち並ぶ古代石柱の回廊を抜けると、俺たちの前に広大な円形の大広間が現れた。
天井からは青白い魔導石の光がかすかに降り注いでいる。だが、その幻想的な光景とは裏腹に、広間全体を包み込む空気は異常なほど重く冷たかった。
「……気をつけてくれ。ここは、これまでの通路とは雰囲気が違う」
俺は広域調律の光膜を一層強く張り直し、カノンとパルスの前に一歩踏み出す。
広場の中央には、古代文字が刻まれた巨大な石の旋盤のような仕掛けが鎮座していた。その周囲には、壁面に沿ってめぐらされた幾多の魔導配管。
その配管の破れ目から、どろりとした嫌な質感の紫の煙――『不協和音の毒素』が大量に吹き出し、床一面を這うように溜まっていた。
「ガアァァァ……ッ!!」
不意に、広場の闇の中から異様な足音が響き渡る。
現れたのは、先ほどのゴーレムよりも遥かに巨大な、石と金属が融合した古代の『守護獣』だった。
その巨体のあちこちに太い紫色の結晶が突き刺さり、本来は誇り高き遺跡の番人であったろう姿は、禍々しい狂乱の怪異へと変貌させられている。
「守護機甲の汚染反応……! アルト様、奴の胸部の魔導核が、紫の結晶と完全に融合してしまっておりますわ!」
カノンの告げたとおり、奴の胸元ではドクンドクンと不気味な脈動を打つ紫の核が激しいノイズを撒き散らしていた。
「グラァァァッ!!」
巨大な守護獣が、巨躯に見合わぬ速度で俺たちめがけて跳躍! 石の爪が振り下ろされる!
「パルス、左へ回避サポート! カノンは無理に攻撃せず影に伏せて!」
「ぷしゅーーッ!!」
パルスが体を弾けさせて衝撃波を生み出し、俺とカノンを瞬時に後方へ退避させる。爪が石畳を激しく粉砕し、轟音が大広間に響き渡った。
「……あいつのノイズは、ただの暴走じゃない。この大広間の『音律仕掛け』と連動している……!」
守護獣が咆哮を上げるたび、中央の石旋盤と壁の古代文字が激しく明滅し、広間全体に俺の調律の波長をかき乱す特殊な反響音が巻き起こる。
「くっ……調律の波長が、広場の空間構造で打ち消される……!?」
指先から放った金色の光が、守護獣に届く前に空間の反響によって歪められ、拡散してしまう。
「アルト様! あの旋盤の古代文字が、調律の波長を相殺する『逆位相ノイズ』を展開しておりますわ! 私が雷撃で旋盤の配管を破壊いたします!」
「危険だカノン! 結晶の反発を受けたら――」
「大丈夫ですわ、アルト様! あなた様が私に注いでくださったあたたかな音色……絶対に散らせたりいたしません!」
カノンが胸元の2つのコアを激しく輝かせる。
深紫色の美しい雷撃が手元に集まり、広場を眩しく撃ち抜く準備を整え始めた――。




