第46基音:静寂の遺跡
「迷宮というより……ここは巨大な『古代遺跡』の建造物そのものだね」
地下二層へ足を踏み入れた途端、周囲の光景は大きく変化した。
剥き出しの配管や無機質な金属壁ではなく、頭上高く聳え立つ古代石柱と、精巧な幾何学模様が刻まれた巨石の回廊。壁面に埋め込まれた魔導石が淡く青い光を放ち、遥か昔に途絶えたはずの文明の静寂を静かに物語っている。
「はい……。ここはかつて、古代の魔導技師たちが集い、人知を超えた技術を研究していた『真理の都』の基盤部分ですわ」
カノンの声が、広大な石造りの回廊に静かに響き渡る。
「迷宮というよりも、巨大な研究施設であり、神殿でもあった場所……。私の記憶の深層にある景色と、酷い精度で合致してしまっています」
カノンはそっと石柱に手を触れた。
彼女の指先が触れた瞬間、壁面の古代文字が微かに青く明滅し、カノンの胸元のコアとまるで呼吸を合わせるように同調し始める。
「……っ!」
「カノン!?」
「大丈夫です……アルト様。拒絶の痛みではありません……。ただ、この遺跡そのものが、私という存在を『認識』しているような……そんな妙な感覚が……」
「遺跡が、カノンを……?」
俺は胸元のソニアの加護を握りしめ、警戒を強めた。
不協和音の紫の煙は、この整然とした古代遺跡の美しさを踏みにじるように、石柱の亀裂や天井の隙間から不気味に滲み出している。この静寂な遺跡全体が、敵組織の放つ狂気のノイズによって侵食されつつあるのだ。
「ぷしゅ〜……(耳をすませるように体を低くするパルス)」
「パルス、何か感じるのか?」
「……静かすぎるのです、アルト様。これほど深い不協和音の毒素が満ちているにもかかわらず、先ほどのような暴走ゴーレムの気配すらありませんわ」
「ああ。まるで……俺たちを深く、奥へと誘い込んでいるみたいだ」
罠だと分かっていても、進むしかない。
この遺跡の最深部に、カノンの過去と敵の陰謀が眠っているのは間違いないのだから。
「行こう、カノン。どんな仕掛けがあろうと、俺の調律で切り開いてみせる」
「はい、アルト様。……あなた様と共になら、私はどんな真実からも逃げ出しません」
俺たちは静寂に包まれた古代遺跡の回廊を、互いの足音と温もりを確かめ合いながら、さらに奥深くへと進んでいった。




