第39基音:決着の雷鳴
「ヒィっ……! 覚えていろ、我ら『不協和音の影』が必ずやお前たちを破滅へと……ッ!!」
追い詰められた男は煙幕の魔導具を取り出し逃走を図ろうとしたが――。
「逃がしませんわ……ッ! 『プラズマ・フィールド』!!」
――バチバチバチッッッ!!!
カノンの放った紫電の障壁が逃げ道を完璧に遮断!
そこへ俺の『断層調律』が真っ直ぐに突き刺さり、男の胸元の【紫の魔導結晶】だけを正確に粉砕した。
「ガあぁぁぁっ……! 結晶が……っ!?」
核を失った男は崩れ落ち、そのまま白目を剥いて意識を失った。
猛烈だった吹雪が嘘のように静まり返り、霊峰の山頂に穏やかな静寂が戻ってくる。
その時だった。
ゆらゆらと清らかなマナの泉がやさしく輝き、先ほどの気品ある精霊が静かに姿を現した。
精霊は倒れた男を一瞥した後、悲しみと決意を瞳に宿す俺とカノンへ、温かな眼差しを向けた。
『狂乱の不協和音を祓いし調律師よ。絶望の淵に立ちながらも、汝らはその絆の音色を失わなかった……見事でした』
「精霊様……。俺は、ヴァンたちを救えませんでした。俺の力が足りなかったせいで……」
伏せる俺の言葉に、精霊は優しく首を横に振った。
『背負う必要はありません。己の選択によって闇へと堕ちた魂を救うことは誰にもできぬ……。けれど汝が最後に奏でたのは、大切な者を想う純粋で美しい音色でした。その響きがある限り、汝の心が完全に闇に染まることはないでしょう』
精霊はそっと手を掲げ、清らかな水の雫を俺とカノンの頭上へと降らせた。戦いの疲労と心の痛みが、じんわりと温かく癒やされていく。
『黒き影の者どもは、世界の調律を狂わせようと蠢いています。……ですが、絆を強めた汝らならば、いずれ訪れる大いなる不協和音をも調律できましょう』
「……はい。俺はもう迷いません。カノンと一緒に、この音を守ります」
『ふふ、良い返事です。……ゆきなさい、愛しき者たちよ』
精霊は穏やかな微笑みを残し、光の粒子となって泉の水面へと溶けていった。
「行きましょう、アルト様。……どこまでも、あなた様と共に」
「うん、行こう!」
「ぷしゅ〜♪」
悲しみを乗り越え、精霊に見送られた俺たちは、次なる旅路へと向けて霊峰グラン・ヴァルを後にするのだった。




