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第36基音:人外の咆哮

「ククク……無駄だ。2つのコアが同調したその機体を、我が結晶の不協和音で束縛させてもらった」

「くっ……あぁぁっ……! アルト……様……っ!」

カノンの身体が金縛りに遭ったように激しく硬直する。胸元の2つのコアが禍々しい黒いノイズに侵食され、彼女は指一本動かすことすらできずにその場に崩れ落ちかけた。

「カノン! 今すぐ助けるから……っ!」

俺は即座に『調律』の光を手に宿し、前へ踏み出そうとする。

だが、その立ちふさがりを阻むように、狂気に満ちた二人の影が立ちはだかった。

「アルトぉぉッ! お前を殺せば……お前さえ消えれば、俺たちはまたやり直せるんだぁぁッ!」

「そうよ……! アンタが死ねば、全部元通りなのよッ!」

血走った目で叫び、不気味に明滅する紫の魔導結晶を掲げるヴァンとミリア。

だが、その全身は不協和音の毒素に蝕まれ、皮膚には黒い斑点が浮かび上がっていた。

「二人とも、やめるんだ! これ以上その結晶を使ったら、心が完全に壊れてしまう!」

俺は必死に二人へ叫びながら、胸元のソニアの加護に意識を集中させた。

二人の荒れ狂う波長を捉え、その不協和音を優しく包み込んで正気に戻すため、穏やかな『調律』の波動を放とうとした――その時。

「言葉で救えるなどと……甘いな、調律師」

音もなく背後に迫った黒フードの男が、嘲笑いながら二人の首筋を掴んだ。

「な……っ!?」

男はヴァンとミリアの口を無理やりこじ開けると、二人が手にしていた【紫の魔導結晶】を、その喉奥へと強引に押し込んだのだ!

「ガァ……ッ!? ギ、グアァァァァァァッ―――!!!!」

「嫌ぁぁぁぁっ! あ、あがっ……熱い、身体が……ッ!!」

二人の悲鳴が、人間のものではない地獄の絶叫へと変わる。

結晶を飲み込んだヴァンの身体がメリメリと不気味な音を立てて巨大化し、皮膚を突き破って漆黒のウロコと異形の爪が生え出していく。ミリアの顔面は歪み、目は漆黒に染まり、背中から禍々しい紫の魔力翼が突き出た。

ほんの数十秒の前まで人間だった二人は、理性を欠片も残さぬ異形の狂乱モンスター――人外の化け物へと変貌を遂げてしまったのだ。

「ヴァ……ン……? ミリア……!?」

あまりの凄惨な光景に、俺は息を飲む。

「クハハハッ! 素晴らしい、絶望的な不協和音の結晶だ!」

フードの男は高らかに笑い、冷徹な視線を俺に向けた。

「無駄だよ、調律師。コアを直接体内に取り込んだ者どもに『正気』など残らん。もはや自我も心も綺麗さっぱり消滅した……そいつらを止める方法はただ一つ。【殺す】以外にないのだからな」

「殺す……しか、ない……?」

「グルァァァァァッ!!」

理性を失ったヴァンの異形が、暴風のような不協和音の咆哮を上げ、鋭い爪を振りかざして俺へと襲いかかってくる!

「アルト様……っ!! 逃げ……てください……っ!!」

身体の自由を奪われたカノンの悲痛な叫びが、吹雪く山頂に虚しく響き渡った――。

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