第34基音:泉の精霊
パルスの頼もしい防風ドームに守られながら雪道を突き進み、俺たちはついに霊峰グラン・ヴァルの頂上付近――神秘の巨石群に囲まれた【マナの泉】へとたどり着いた。
「ここが……マナの泉……!?」
だが、本来なら澄み切ったマナの水面が広がるはずの泉は、不気味な紫色に濁り、耳を塞ぎたくなるほどの激しい不協和音を撒き散らしていた。
「――ガガガ……ギギギッ……!」
俺は速やかに『広域調律』を放ち、泉を覆っていた濁りと不協和音を綺麗に祓い清めた。水面はまるで星空を映したかのような美しいエメラルドグリーンへと姿を変える。
「ふぅ、これでノイズは消えたね! さっそくコアに魔力を充填しよう」
俺はリュックから、出がらし状態の『二つ目の古代魔導コア』を取り出し、泉の水につけてみた。
……だが、何も起こらない。
「あれ……? 変化がないぞ。ただ泉に沈めるだけじゃ駄目なのかな……?」
「私のデータベースにも、古代コアへの『高濃度マナの再充填手順』の詳細は記録されておりませんわ……」
「ぷしゅ〜……?(首をかしげるパルス)」
綺麗な水に戻ったものの、チャージのやり方が分からず立ち尽くしてしまう俺たち。
その時だった。
ゆらゆらと泉の中央が輝き、水が結晶のように組み合わさって人の形を成していく。
現れたのは、澄んだ水のドレスを纏い、神秘的で気品あふれる女性の姿をした精霊だった。
『……我が泉のノイズを祓いし者よ。汝、古代の遺物に力を求むるか……』
精霊の声は、頭の中に直接響く美しい鐘の音のようだった。
「精霊様……! この黒いコアに、泉のマナを再充填したいんです。やり方を教えてもらえませんか?」
俺が尋ねると、精霊は優しく、しかし静かに首を横に振った。
『このコアはあまりに巨大な器。ただ浸すのみでは、マナは注がれぬ。器と泉の波長を完全に『同期』させ、マナの流体回路を繋ぐ【導体】となる者が居らねばならぬ……さもなくば、コアは目覚めぬ』
「波長の同期……流体回路……!」
つまり、俺の『調律』で泉のマナとコアの波動を一本の線で繋ぎ、魔力を流し込むパイプラインを作ればいいんだ!
「精霊様、俺にその導体をやらせてください!」
『……フフ、良いでしょう。汝の美しい音色、見せてみなさい』
俺は深く息を吸い込み、清らかな泉と手の中の黒いコア、その二つの波長にじっと耳を澄ませた。
両者の微妙なズレを指先で手繰り寄せ、完璧なひとつの和音へと重ね合わせていく。
――パチンッ!
『深層同調』
俺の指先から放たれた金色の光の帯が、泉とコアを真っ直ぐに繋いだ!
――ゴオォォォォ……ッ!!
「な……ッ、泉のマナが、一気にコアへ流れ込んでいきますわ……!」
カノンの悲鳴のような歓声が響く。
精霊が穏やかに微笑む中、泉から溢れ出る圧倒的なマナが渦を巻いてコアへと吸い込まれていく。
黒ずんでいた結晶はみるみるうちに威光を取り戻し、雷のスパークを纏った美しい深紫色の輝きを解き放ち始めた!
『見事なり、調律師よ。器は満たされた……』
光となって泉へと溶けていく精霊に見送られながら、俺は完全に充填されたコアを掲げた。
「カノン、いくよ! 『鍵解の調律』!」
「はい、アルト様……っ!!」
コアをカノンの胸元へかざすと、光を放つ結晶は彼女の体に優しく溶け込み――全身から圧倒的な紫電の魔力が爆発的に解き放たれた!
「これは……! 私の魔導回路が新たな次元へと拡張され、『広範囲電撃障壁』が解放されましたわ……!」
パワーアップを果たしたカノンと喜び合う俺たち。
だがその時、山頂の遠く眼下から、不気味な紫色の不協和音が静かに迫ってきていた――。




