第33基音:頼もしいパルス
「ふぅ……息が白いどころか、吐いた息が瞬時に凍りつきそうだね」
ビアンカの町を後にし、俺たちは【霊峰グラン・ヴァル】の登山口へと足を踏み入れていた。
一歩山へと踏み入れば、そこは猛烈な吹雪が吹き荒れる白銀の世界。視界を埋め尽くす雪と、肌を刺すような刺すような激しい寒気が襲いかかってくる。
そして何より――耳の奥を直接引っ掻くような、不快な不協和音のノイズ。
「――ギ……ギギッ……ツツツ……ッ」
「くっ……! カデンツァの時よりも、ずっとノイズが濃い……!」
俺は耳を塞ぎたくなるのを耐え、胸元の『ソニアの加護』に手を当てて波長を必死に抑え込む。
「アルト様! 私の背後にお下がりください! 魔導炉の出力を上げ、風よけとなりますわ!」
「ぷしゅーっ!!」
カノンが前に出ようとしたその時、リュックから元気に飛び出したのはパルスだった。
極寒の吹雪の中でも、パルスは寒がるどころかむしろピンピンしている。それどころか、ぷるぷるの体をぐーんと大きく横に引き伸ばし、俺たちの前でかまくらのような『防風ドーム』の形に変化して吹雪をシャットアウトしてくれたのだ!
「すごい……! パルス、寒さは平気なの!?」
「ぷしゅー!(冷気なんてへっちゃらだと言わんばかりに胸(?)を張るパルス)」
「まあ……! 不協和音を吸収・適応するノイズスライムの体質ゆえに、この程度の極寒など意にも介さないのですわね! ……くっ、アルト様をお守りする一番の盾の座をパルスに奪われるとは……!」
ちょっと悔しそうに拳を握りしめるカノンに苦笑しつつも、パルスの防風ドームのおかげで、一気に寒さと風の圧迫感が和らいだ。
「助かったよパルス、頼りになるね!」
「ぷしゅ〜♪」
パルスのサポートを受けながら、俺たちは足元を確かめて順調に雪道を登っていく。だが山の中腹に差し掛かったその時――前方から不気味な地響きが轟いた。
ガウゥゥゥゥオオンッ!!
吹雪の奥から、赤く血走った不気味な目を光らせた巨大な獣たちが姿を現す。
銀色の毛皮をなびかせたその体からは、紫色の濁った靄が立ち上っていた。
「狂乱モンスター……『氷狼』の群れですわ……!」
カノンが瞬時に右腕の仕込み刃を展開し、鋭い殺気を放つ。
「アルト様の行く手を阻む害獣ども……一塵の灰となしなさい!」
「待ってカノン、殺さないで! あいつらもノイズで頭がおかしくなってるだけだ!」
俺は即座に制止をかけ、風を防いでくれているパルスに向かって叫んだ。
「パルス、そのまま波長の増幅をお願い!」
「ぷしゅーっ!!」
パルスは防風ドームの形状を保ったまま、体表面を細かく振動させて広域増幅器の役割を果たしてくれた。
俺は胸元のソニアの加護に意識を集中し、澄み渡る調律の波動を、狂暴化して襲いかかってくる氷狼たちへと放った。
――パチンッ!
『広域調律』
金色の綺麗な音色と光がパルスの振動に乗って遠くまで広がり、吹雪を切り裂いて氷狼たちを覆っていた紫色の靄を一瞬で吹き飛ばす!
「グルル……!? ガンッ……!?」
ノイズから解放された氷狼たちは呆然とした後、俺たちの圧倒的な調律の光に恐れをなしたのか、脱兎の勢いで山奥へと逃げ出していった。
「ふぅ……パルスのおかげでスムーズに突破できたね」
「悔しいですが、実に見事な連携でしたわパルス……! ですがアルト様、山の頂上付近からは、これ以上の凶悪な不協和音が漂ってきております」
カノンが表情を引き締め、真剣な眼差しで山頂を見上げる。
「急ごう! マナの泉を浄化して、二つ目のコアに魔力を取り戻すために!」
「「ぷしゅーっ!!」」
パルスの頼もしい活躍に背中を押されながら、俺たちは白銀の難所【霊峰グラン・ヴァル】の山頂を目指し、さらに高く登っていくのだった。




