第31基音:ノイズの正体
翌朝、俺たちはビアンカにあるマルコ商会の支店を訪ねていた。
重厚な木製の扉をくぐる。店内には防寒用の魔導具や重登山用の道具が所狭しと並んでおり、奥から支配人の老紳士が姿を現した。
「ようこそおいでくださいました、アルト様、カノン様。本部からの連絡は受けております」
「こんにちは。……実は昨日の夜から、町全体に妙な『ノイズ』のような波長を感じるんだけど、霊峰グラン・ヴァルで何か異変でも起きてるのかな?」
俺が切り出すと、支配人は困惑と重苦しい色を浮かべて深く溜め息をついた。
「流石はアルト様……お察しの通りです。実はここ数日、霊峰グラン・ヴァルからの『狂乱モンスター』の異常発生により、登山道が完全に閉ざされているのです」
「狂乱モンスター……? まさか、不協和音による暴走ですか?」
カノンの紫色の瞳が鋭く光る。
「ええ。本来は山奥に潜む凶暴な魔獣たちが、山頂付近から溢れ出す不気味なノイズによって精神を激しくかき乱され、下山してきているのです。登山道には凶暴化した『氷狼』の群れも陣取っているとのこと……」
「マナの泉そのものがノイズで汚染されている可能性が高いですわね」
「うん。でも、マナの波長を元に戻さないとコアに綺麗な魔力を充填できない。俺たちの手でノイズを抑え込もう」
「ぷしゅーっ!」
リュックの中でパルスも気合を入れるように体をプルプルと震わせる。
「明日山に入る許可をもらうことはできるかな?」
「アルト様方がお向かいいただけるのであれば、ギルドへは私から話を通しておきましょう。本日はマルコ商会特製の耐寒用登山ギヤをお持ちいたしますので、宿で十分にお身体を休めて明日にお備えください」
◇
その夜――。俺たちはマルコ商会が手配してくれたビアンカの宿屋で過ごしていた。
部屋の暖炉ではパチパチと薪がはぜ、暖かな炎が室内を包んでいる。窓の外では冷たい寒風が吹き荒れていた。
テーブルの上には、買い揃えた頑丈な登山靴、耐寒コート、そして万が一に備えたポーション類が綺麗に並べられている。俺とカノンは手分けして、装備の最終チェックを進めた。
「よし、防寒具の調律も済んだし、装備の点検は完璧だね」
「はい、アルト様。……明日は本格的な雪山登攀となります。猛吹雪や狂乱した魔獣だけでなく、極寒の環境そのものが脅威ですわ」
「うん、油断はできないね。でもカノンやパルスがいてくれれば心強いよ」
「アルト様……ッ! 私めは明日、アルト様の体温を1度たりとも低下させないよう、完璧な密着防寒体制で臨む所存です! 今夜はその予行演習として――」
「あ、カノン、予行演習は大丈夫だから! ベッドが狭いから落ち着いて……ッ!」
「ぷしゅ〜……(暖炉の熱で温まりながら気持ちよさそうに眠るパルス)」
明日の険しい雪山越えを前に、俺たちは賑やかで温かな夜を過ごし、しっかりと身体を休めたのだった。




