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第28基音:古龍ソニアの加護

「……ん……あ……っ」

重い瞼を開けると、視界に飛び込んできたのは薄暗い洞窟の天井と、涙で瞳を濡らしたカノンの顔だった。

「アルト様……!? アルト様っ!!」

「カノ、ン……? 俺、どうなったの……」

ゆっくりと身体を起こそうとすると全身に激痛が走り、思わず顔をしかめる。服はボロボロのままで、魔力も底をつきかけていた。

「アルト様、まだ動いては危険です! 蜥蜴は……あの愚かな古龍は私の全出力で無力化いたしました。ですが、アルト様のお体が……っ」

カノンに支えられながら周囲を見渡すと、そこには白目を剥いて倒れ伏している巨大なサンダードラゴンの姿があった。

「よかった、生きてるんだね……」

「アルト様!? あんな害虫、私の手で今すぐ粉々に削ぎ落としますわ!」

「ダメだよカノン。あいつもコアの不協和音に脳を狂わされて苦しんでいたんだ。……ちょっと待っててね」

俺はフラつく体をカノンに抱えられながら、気絶しているドラゴンへと這い寄った。ボロボロの右手で龍の巨躯に触れ、残された微かな魔力を振り絞る。

――パチンッ。

『調律(チューニング)』

弱々しくも澄んだ波長が龍の体内へと浸透し、狂乱の元凶だった不協和音のノイズが一気に綺麗に拭い去られた。

「グ……ガッ……!? ――ハッ!?」

ノイズが晴れ、ハッと目を覚ましたサンダードラゴン。

血走っていた瞳は穏やかな黄金色を取り戻し、自分を苦しみから救ってくれた目の前の小さな人間(アルト)をじっと見つめた。

『……我が頭を苛んでいた、あの忌々しい不協和音が消えている……? 若き人間よ、お前が我が魂を狂気から救い出してくれたのか……?』

「えっ……喋れたの!?」

洞窟内に響き渡る、厳かでありながらどこか気品のある女性のような声。アルトが目を丸くすると、古龍は申し訳なさそうに巨躯を低くかがめた。

『うむ。我は古龍ソニア。狂乱し、貴殿らに牙を剥いた無礼を許してほしい……。実は我、傷を負ってこの地へ落ち延び、あの結晶(コア)の魔力に惹き寄せられたのだ。……だが、魔力を吸い上げるにつれ、蓄積された激しいノイズまで取り込んでしまい、理性を失って暴走してしまった……』

「そうだったんだ……ソニアも被害者だったんだね」

『うむ……我が無謀な吸入のせいで、あの結晶は魔力を失い、光を失ってしまっておる。そして、我がために貴殿にそれほどの傷を負わせてしまったとは……』

ソニアはボロボロのアルトを痛ましそうに見つめると、壊れた宝箱や古い鞄が転がっている岩陰を鼻先で指し示した。

『カノンなる者よ、あそこを見るが良い。かつて我が領域に挑み、返り討ちとなった愚か者どもの遺品だ。その中に、彼奴の傷を癒す秘薬があるはずだ』

「アルト様を救うための薬品……!?」

「プルプルッ!」

カノンの指示でパルスが勢いよく岩陰へ跳んでいく。

そこには、過去の冒険者たちが持ち込んだ未使用の『高級回復ポーション』が大量に眠っていた!

「プルプル〜〜〜っ!」

パルスは小さな体を大きく膨らませると、大量のポーション瓶を「ぽんぽん」と自分の体内に収納していき、弾むように戻ってきた。

パルスから受け取ったポーションを、カノンが溢れんばかりの愛おしさを込めてアルトの口元へと運ぶ。

「アルト様、お飲みください……っ!」

高級ポーションの聖なる光が全身を行き渡り、ボロボロだった傷がみるみるうちに塞がっていく。

「ふぅ……生きた心地がしたよ。ありがと、カノン、パルス……それに、ソニアも教えてくれてありがとうね」

『ふふ、礼を言うのはこちらの方だ、アルト。貴殿のその力……まことに見事であった』

目を細めて嬉しそうに喉を鳴らす古龍ソニア。

俺たちは回復した身体で立ち上がり、台座の上へと向かった。

そこには、ソニアに魔力を吸い尽くされ、黒ずんで光を失った――『二つ目の古代魔導コア』が静かに佇んでいた。

「魔力が完全に空っぽになっちゃってるね……。今のままだと、カノンの中に融合させても真の機能は戻らないみたいだ」

カノンが仕込み刃を収め、悔しそうにコアを見つめる。

「申し訳ございません、アルト様……。私にこのコアを無理やり起動させるほどの魔力があればよいのですが……」

「ううん、カノンのせいじゃないよ。……ソニア、このコアに膨大な魔力を安全に充填できる場所って、どこかに心当たりないかな?」

アルトの問いかけに、ソニアは悔しそうに翼を揺らした。

『うむ。ここから北へ向かった先、かつて精霊たちが集いし【霊峰グラン・ヴァル】の最奥――『マナの泉』であれば、このコアを再び満たせるはずだ。……本来ならば我が直々に案内したいところなのだが、この身も限界でな。貴殿らに同行することは叶わん……』

「ううん、気にしないで! ソニアもゆっくり身体を休めてね」

『恩に着る、アルト……。せめてもの礼に、我が加護を授けよう』

ソニアがそっとアルトの胸元へ鼻先を寄せると、まばゆい金色の雷光が優しくアルトとカノンを包み込んだ。

――『古龍ソニアの加護』

『これで霊峰までの道筋が脳裏に浮かぶはずだ。そして……我が雷の波長が、貴殿らの道中を守る盾となろう』

「ソニアの加護……! ありがとう、案内以上のものを貰っちゃったよ!」

「プルプル〜♪」

「アルト様、目的地は決まりましたね。ソニアの加護とともに、どんな過酷な霊峰であろうと乗り越えてみせますわ!」

光を失ったコアを大切に回収し、俺たちは新たな目的地【霊峰グラン・ヴァル】を目指して、響鳴の鉱山をあとにのだった。

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