第27基音:鳴動する古龍、解き放たれし終末の極光
【銀翼】の二人をあとにした俺たちは、静けさを取り戻した……と思われた響鳴の鉱山の最奥へと足を進めた。
しかし奥へ進むにつれて壁の水晶が「バリバリバリッ!」と激しい紫電を放ち、鼓膜を打ち破るような強烈な重低音が洞窟全体を激しく揺らし始めた。
「くっ……! アルト様、お気をつけください! この先の魔力反応、これまでのノイズとは桁が違います……!」
「プルプル……っ!」
カノンが仕込み刃を構え、パルスも俺の肩の上で身を小さく縮める。
広大な地下空洞の最奥――巨大な古代祭壇の広場に足を踏み入れた俺たちの視界に飛び込んできたのは、凄まじい光景だった。
「グオオオオオオオオンッ!!!!」
咆哮一発で洞窟の天井が崩れ落ちかける。そこに立ち塞がっていたのは、全身に紫色の雷光を纏った巨躯の古龍――『サンダードラゴン』だった。
その鋭い爪の先、祭壇の台座の上には、雷と不協和音のノイズを放つ紫色の結晶体――『二つ目の古代魔導コア』がまるで宝物のように抱え込まれていた。
「あいつ、コアの凄まじい魔力を取り込もうとして不協和音で狂乱してるんだ! このままじゃ鉱山ごと崩落しちゃうよ!」
「オオオオオッ!!」
サンダードラゴンが咆哮とともに、超高圧の紫電と破壊音波を怒涛のごとく放ってきた!
「アルト様に害をなす不潔な蜥蜴め……ッ! 露と消えなさい!」
カノンがひとつ目のコアの力で『魔導の光翼』を展開し、閃光のような踏み込みでドラゴンへ突撃する! だが、暴走した古龍の圧倒的な出力と、全身から撒き散らされる重厚なノイズ波紋は想像を遥かに超えていた。
「くっ……あぁああっ!?」
ドォンッ!! と激しい衝撃音が地下空洞に轟く。カノンの必殺の一撃がドラゴンのノイズ障壁に完全に阻まれ、押し込まれた挙句、強烈な雷撃の不協和音に弾き飛ばされて岩壁へ激しく激突した。
さらにサンダードラゴンは追撃の手を緩めず、倒れ伏すカノンへ向けて最大出力の雷撃ブレスを放とうと顎を開く!
「カノン……ッ!!」
俺は考えるより先に足が動いていた。カノンの前に割り込み、無謀にも両手を広げて立ち塞がる。
――チュドォオオオオンッ!!!!!
凄まじい爆炎と衝撃波が広場を包み込む。
「アルト……様……!?」
煙の向こう側で、血の気を引かせたカノンの悲鳴が響いた。
直撃の寸前、ポケットから飛び出したパルスが巨大化し、間一髪で雷撃の威力を全身で吸収して俺を庇ってくれていた。パルスのおかげで命こそ助かったものの、俺の体は衝撃に耐え切れず、服はボロボロに破け、膝から崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……パルス、ありがと……。無事で、よかった……」
「アルト様! アルト様ぁあああっ!!」
カノンがなりふり構わず駆け寄り、血と煤に塗れた俺を抱き上げる。その紫の瞳からはポロポロと大きな涙が溢れ出していた。
「申し訳ございません……私が力不足だったばかりに、アルト様にこのようなお怪我を……ッ!」
「気に……しないで、カノン……」
俺は薄れゆく意識の中で、震える手を伸ばしてカノンの背中――魔導回路の根幹へとそっと触れた。
かつて神話の時代に【世界を滅ぼしかけた】とされる最終兵器の出力。その恐ろしい破壊力を危惧した俺は、以前彼女の魔力回路に「出力を一定以下に抑え込む調律(制限)」を施していた。
でも、俺を心から慕ってくれる今のカノンなら、絶対に大丈夫だ。
「せめて……カノンだけは、絶対に守りたいから……」
「アルト……様……?」
俺は残された全身の魔力を振り絞り、カノンの背中の結び目に向かって指を鳴らした。
――パチンッ……。
『鍵解の調律』
「俺がかけた制限を……解くよ……。思いっきり、やってきて……」
「――ッ!?」
その言葉を最後に、俺の視界は真っ暗になり、その場に崩れ落ちるように気絶した。
直後、カノンの体内で封印されていた神話級の全魔力が暴走的に吹き荒れた。かつて文明を一瞬で滅ぼしかけた危険すぎる破壊の力が、アルトへの深い愛と怒りを乗せて完全に覚醒する。
「……アルト様を傷つけた罪……その万死に値する身で贖いなさい」
覚醒したカノンの四対の光翼から放たれた極限の閃光が一瞬で地下空洞を包み込み、サンダードラゴンは反撃の隙すら与えられず、その圧倒的な神話級の圧力の前に白目を剥いて気絶し、巨躯を崩れ落としたのだった。




