第25基音:響き渡る断罪
「……私の大好きなアルト様に……死にぞこないの害虫が、気安く口を利くなアアアアッ!!!!」
カノンの殺気と覚醒した魔導コアの圧迫感が地下広場を支配し、ヴァンとミリアは悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
「ひぃっ、ひぃあああ……っ! な、なんだこの女ぁあああ!?」
「か、身体が動かない……っ! 圧死しちゃうわヴァン……っ!!」
ガタガタと震える二人の頭上で、巨大な岩石の魔物――『ノイズ・ゴーレム』が不快な振動音を撒き散らしながら大腕を振り上げた。広場全体の空気が「キィィィン!」と耳を突き破るような強烈な不協和音で満たされていく。
広大な地下空洞の各所にある水晶がノイズを反射・反響させ、ゴーレムの全身を分厚い不協和音の障壁が包み込んでいた。
「うわ、広場全体にノイズが反響して、あいつの身体を覆っちゃってるな……普通に指を鳴らすだけじゃ、奥のコアまで届きにくいかも」
アルトが少し困ったように呟いた、その時――。
「プルプル〜〜〜っ!!」
アルトのポケットから元気に飛び出したのは、小さなノイズスライムのパルスだった!
パルスはアルトの右手にピタッと張り付くと、ぷにぷにとした体を平たく広げ、まるで綺麗な「手袋」のような形へと姿を変える。さらにパルスの全身が、鉱山内の不快な雑音を急速に吸い上げ、アルトの魔力を通すための「最高の触媒」として輝き始めた。
「パルス……! もしかして、俺の調律の波長を増幅して、広場全体に届けてくれるの!?」
「プルプルッ!」
自信満々に体を揺らすパルス。不協和音が大好物なパルスにとって、この広場を覆う雑音は最高の「ご馳走」であり、アルトの綺麗な波長を遠くまで伝えるスピーカーの役割を果たせるのだ。
「ありがとパルス! よし……いっくよー!」
アルトはパルスの触媒効果を纏った右手で、ゆっくりと、そして力強く指を鳴らした。
――パチンッ!!!!
『超・調律』
パルスの増幅器としての役割により、指を鳴らした音は単なる「音」を超え、澄み切った黄金の衝撃波となって地下広場全体へ一瞬で伝破した!
「フォーン……響……響……」
美しく神聖な音色が広域の洞窟内に残響する。
次の瞬間――。
広場を包んでいたノイズ・ゴーレムの重圧な不協和音が一瞬で「無」へと書き換えられ、ゴーレムを構成していた巨大な岩石群の接合部の波長が完璧に分解された。
「グ……ゴ……!?」
崩壊音すら聞こえない。ノイズ・ゴーレムはただの「サラサラとした美しい砂」の山へと変わり、地下広場に静かに崩れ落ちた。
「な……っ!? い、一瞬で……あんな巨大な魔物を砂にしただと……!?」
腰を抜かしたまま見ていたヴァンが、目玉が飛び出そうなほどの衝撃に口をぐうぐうと開ける。
「そんな……魔法も剣も届かない怪物を、指パッチンひとつで……!? アルト、あんた一体何をしたのよ……っ!?」
ミリアも自身の杖を握りしめたまま、ガタガタと膝を震わせて地上にへたり込んでいた。
「何をしたって……あいつ、手入れ不足でノイズが溜まって体がガタガタだったからさ。パルスに手伝ってもらって、波長を綺麗に整えてあげただけだよ?」
「整えたって……消滅して砂になってるじゃない!!」
「え? ちゃんと自然な砂の波長に戻っただけだけど……」
天然で首をかしげるアルトの横で、右手から離れてドヤ顔で「プルプル〜♪」と誇らしげに跳ねるパルス。
【銀翼】の二人は、恐ろしいほどの衝撃と混乱で立ち上がることすらできず、ただ口をぐうぐうと開けて目の前の光景に呆然と立ち尽くすのだった。




