第23基音:それぞれの現在地
カデンツァの街を見下ろすマルコ商会本店の最上階。
「なるほど、残り三つのコア回路か……」
マルコさんは重厚なデスクで紅茶のカップを置き、深い思索に耽るように顎に手を当てた。
「古代魔導兵器のコアとなれば、いずれも一国を揺るがすほどの秘宝だ。だが安心したまえ、アルト君。我がマルコ商会の全情報網を駆使して、残りのコアの行方を追わせよう」
「ありがとうございます、マルコさん! 本当に心強いです」
「なに、命の恩人に報いるのは商人の誇りだからね。情報が入り次第、すぐに連絡を入れるよ。それまではカデンツァのギルドで腕を磨くなり、ゆっくり旅の準備を整えるといい」
「はい!」
「プルプル〜♪」
膝の上のパルスも嬉しそうに跳ねる。一つ目のコアを取り戻したカノンは、心なしか以前よりも肌の艶が増し、全身から溢れる魔力の波長も驚くほど澄み渡っていた。
「アルト様……これでまた一歩、本来の姿でアルト様をお守りできる状態へと近づきました。残り三つのコアも、必ずやアルト様の手で手に入れて見せますわ……っ(激重決意)」
「はは、頼りにしてるよカノン」
◇
――一方その頃。王都近郊のランクD冒険者ギルド。
かつてSランクパーティーとして名を馳せていた【銀翼】のリーダー・ヴァンと、魔導士ミリアは、薄汚れた掲示板の前で途方に暮れていた。
「クソッ……なんでだ……! なんで俺たちの攻撃がまともに通らねぇんだよ……!!」
バンッと壁を叩くヴァンの剣や防具は傷だらけで、かつての眩いばかりの銀色の輝きは見る影もない。
「ヴァン、もうやめて……! 昨日のEランク討伐依頼だって、あなたの剣の刃が途中でボロボロにこぼれて、あやうく全滅しかけたのよ!? どうして……アルトがいた頃は、こんなこと一度もなかったのに……っ」
ミリアは青ざめた顔で自身の杖を見つめる。どれだけ高価な魔導石を嵌め込んでも、呪文を唱えるたびに嫌な不協和音が響き、威力が半分も出ないのだ。
『アルトの奴……ただの雑用係のくせに、一体何をしてたんだ……?』
二人はまだ気づいていない。
自分たちの武器や防具、魔法の媒質が、かつてアルトによって毎日のように「完璧な波長に調律され、限界以上の性能を引き出されていた」という事実に。
メンテナンスを怠り、波長がガタガタになった装備のままでは、どれだけ元Sランクの技術があろうとまともに戦えるはずがなかったのだ。
「あいつを追放してから、何もかもがおかしくなった……! くそっ、アルトはどこへ行ったんだ……!?」
落ちぶれ、互いに責任をなすりつけ合いながら衰退していく【銀翼】の二人。
彼らが自分たちの致命的な愚かさに気づく刻は、刻一刻と近づいていた。
◇
そして、カデンツァ。
「アルト様、ギルドから面白そうな依頼が届いておりますわ!」
カノンが手にしていたのは、カデンツァ北部に広がる未踏の古代遺跡『響鳴の鉱山』からの調査依頼状だった。
「響鳴の鉱山……? なんだか凄そうな名前だね」
「ええ、なんでも特殊な音波と魔力が渦巻いており、普通の冒険者では立ち入ることすら困難な場所だとか」
「音波と魔力か……なんだか波長を調律しがいがありそうだな! よし、カノン、行ってみよう!」
「はい、アルト様! どこまでもご一緒いたします!」
一つ目のコアを手に入れ、絆を深めた二人は、次なる『古代魔導コア』の足がかりを求め、新たな冒険の地へと踏み出していくのだった。




