第14基音:狂乱と能力解放
旧・鉱山ダンジョンの最奥部――広大な地下空洞へと辿り着いた俺たちを迎えたのは、地面を揺らすほどの凄まじい地鳴りだった。
「グォオオオオオオンッ!!」
空洞の中央に鎮座していたのは、身の丈五メートルを超える巨躯を誇る『アーマータイラント』。全身を硬質な鉱石の甲殻で覆った極めて凶暴な魔物だ。
だが、その体表は赤黒く脈打ち、周囲の空間そのものを歪めるほどの激しい魔力ノイズを撒き散らしていた。
「ひどい不協和音だ……。全身の魔力回路が限界まで目詰まりを起こして暴走してる」
「アルト様、お任せください。セーフティ調律のままでも、私の出力ならあの程度の害獣、数秒で粉砕してみせます」
カノンがスッと前に出ようとしたその時、アーマータイラントが咆哮とともに超高密度の魔力ブレスを解き放った。
――ドゴォォォンッ!!
セーフティ状態のカノンが展開した障壁がブレスを完全に防ぎ切る。しかし、直後にアーマータイラントが放った鉱石の針の豪雨と連続攻撃により、地下空洞の天井に巨大な亀裂が走り始めた。
「まずいな……あいつの甲殻、暴走魔力を溜め込みすぎて変質してる。カノンのセーフティ攻撃だと、相手の防具と噛み合って余計に周囲へ衝撃が跳ね返って崩落しちゃうぞ」
洞窟を崩させず、一瞬で確実に仕留めるには――衝撃を拡散させない最高精度の超高火力が必要だ。
俺は覚悟を決め、カノンの背中へ歩み寄った。
「カノン、セーフティを外すよ。一撃で確実に過剰なメンテ不足を終わらせて!」
「っ……! アルト様による、私の真価の再調律……!」
カノンの背中にそっと手をかざし、回路の波長を最高効率の正調へと一気に解き放つ。
パチン――!!
澄み切った指鳴らしの音が地下空洞全体に響き渡った。
その瞬間、カノンを包む魔力が劇的に変化した。
【星紡ぎのドレス】に刻まれた古代の幾何学模様が神々しい真の光を放ち、かつて世界を滅ぼしかけた魔導兵器としての圧倒的な神威が解放される。
「アルト様のお言せのままに――過調律・完全殲滅形態」
カノンが優雅に細い指をアーマータイラントへ向けた。
放たれたのは、音も衝撃すらも置き去りにする、超高密度に圧縮された一筋の紫紺の閃光。
――シュンッ……!
空気を引き裂く微かな音を残し、周囲の岩盤を一切傷つけることなく、アーマータイラントの巨躯だけが分子レベルで消失した。
「ふぅ……よし、崩落させずに完璧に片付いたな! さすがカノン、メンテ完了後の出力調整もバッチリだ!」
俺が爽やかに拍手を送ると、能力解放の余韻を纏ったカノンが熱い息を吐き出しながら振り返り、うっとりと頬を染めて俺に抱きついてきた。
「あぁ……アルト様……っ! 私の全てを解放し、導いてくださる心地よさ……私、一生アルト様から離れられません……っ!」
「わわっ、カノンちょっと離れて!? パルスがつぶれちゃうから!」
ポケットの中から「プルプルッ!?」と焦ったパルスが顔を覗かせる。
こうして俺たちは、カノンの再調律による圧倒的な一撃で、昇格試験のターゲットを見事に撃破したのだった。




