第13基音:旧・鉱山ダンジョン
ハーモニアの街を北に抜け、俺たちは鬱蒼とした岩山に囲まれた【旧・鉱山ダンジョン】へと到着した。
かつて鉱石の採掘で栄えたというその洞窟の入口は、硬質な冷気と嫌な湿気が漂っている。
「ここが昇格試験の舞台か……。洞窟の中って波長が反響しやすいから、メンテ不足の魔物がいたら厄介だな」
俺が洞窟の奥を見つめていると、隣のカノンが【星紡ぎのドレス】の裾をなびかせながら、すっと俺の前に出た。
「アルト様、一足飛びに最奥まで吹き飛ばしてまいりましょうか? この洞窟ごと蒸発させれば、調査も一瞬で完了いたします」
「絶対ダメ!! 洞窟ごと吹き飛ばしたら鉱山が崩落しちゃうでしょ!?」
慌てて止める俺の首元で、パルスも「プルプルッ!」と怯えたように縮こまっている。
「カノンは元が伝説の魔導兵器だから出力が高すぎるんだよ。昔のパーツがメンテ不足で魔力漏れを起こしやすいからね。ほら、ちょっとこっち来て」
「あっ……アルト様……っ」
俺はカノンの前髪に軽く触れ、魔力回路の出力を安全レベルまで絞り込むように右手をかざした。
パチン――!
「はい、これで一時的にセーフティ調律完了。威力を抑えて、穏やかに行こうね?」
「……はいっ! アルト様が私の強大すぎる力を優しく抑え、制御してくださるなんて……あぁ、愛されているのですね……っ!」
カノンは胸の前で手を組み、うっとりと頬を染めている。
(いや、ただの出力調整なんだけどな……)
◇
松明の光を頼りに洞窟の薄暗い通路を進んでいく。
奥に進むにつれて、空気中に含まれる魔力の波動が徐々にザラついた不快なものへと変わっていった。
「キキキキッ……!」
天井から姿を現したのは、人間ほどの大きさがある巨大な血吸いコウモリ『ブラッドバット』の群れだ。真っ赤な目を光らせて襲いかかってくる。
「アルト様、お下がりを。――散りなさい」
セーフティ調律のおかげで洞窟全体を吹き飛ばすような大惨事は免れたものの、カノンの指先から放たれた紫の魔力圧はコウモリの群れを一瞬で灰燼へと変えた。
(出力を抑えてこれか……。カノンが本気を出したら本当に山が消えるな)
「アルト様、奥から凄まじい不協和音が伝わってきます」
「ああ、マッドボアやノイズスライムの時とは比べものにならないくらい波長がズレてる。これがギルドの言っていた『ボス個体』か……」
俺たちは気を引き締め直し、旧・鉱山ダンジョンの最深部へと足を踏み入れた。




