誕生日会2
~ナセル視点~
「やぁ。よくきてくれたね」
異世界の記憶を持つとかいうよく分からないマリという令嬢。
いつもシャノンを敵対視しているように思える。今日の目つきも怪しい。
会場をぐるりと見渡すと兄がこちらを見ていたので、目が合い頷くとこちらに向かって歩を進めていた。
私はシャノンの腰を優しく抱き直した。すると何か察したのかシャノンが私を見てきた。
不安にさせてはいけない。ちょどそこに兄が来た。
「ナセル、どうかしたのか?ん? こちらの令嬢は初めてみる顔だな」
兄が自然に声をかけてきた。
「兄上、こちらの令嬢とは同じ学園でクラスは違いますが、同学年なんですよ」
「わぁ! マックス様ですか!」
このマリという令嬢は私だけに留まらず兄の名前も呼んだ。許可されてもいないのに。
というか、王太子に声をかけられたら、まず挨拶をしろ! それが常識だろう!
常識のない、いや常識が通じない相手との会話がここまで辛いとは思わなかった。
事情を知る兄だから許せているだけで、通常ならこの場から追い出されていてもおかしくない。
「初対面で知らない令嬢に私の名前を気安く呼ばれたくはないので、控えてもらおうか」
マリの事情を知る兄だが、既に気分を悪くしている。口調こそ抑えてはいるが目つきで分かる。
「あ、そうですよね。すみませんでした。私はマリ・ロルシーと申します!」
ちょこんと、頭を下げるが、それは挨拶なのか? 到底理解が出来ない。このレベルで王宮に足を踏み入れるとは……
「なるほど……ロルシー子爵のご令嬢ということか」
「はい! そうです」
「兄上この令嬢が例の……」
言葉を濁す。これも私と兄上とのシナリオ通りだった。
「ほぉ。異世界からきたと言う」
周りが騒めき出した。王太子と第二王子が話をしている。お近づきになりたい貴族達は近くに寄って話す機会を狙っているのだから、兄が言った言葉に敏感に反応を示した。
「やだぁ。ナセル様にしか言ってなかったのに、マックス様もご存じでしたのね」
いつの間にかルイズも近くに来ていた。めっちゃくちゃ機嫌が悪そうだな……名前を呼ぶなと言われているにも関わらず、名前を呼ぶのだから。
ルイズの扇子が可哀想だ。折れるんじゃないか?
シャノンもルイズを見て心配しているようでルイズの所へ行こうとしているが、そうはさせない。
シャノンを見て落ち着かせるように笑った。
そして程よく周りに聞こえる声で兄が言った。
「ロルシー嬢は何が望みだ?」
「さすが、マックス様! 物分かりがいいですね。私の知識があればこの国はとぉっーても発展します。私が知っているところは技術が発達していました。私の知っていることを教えたら願い事を叶えてくれますか?」
これは取引なのだろうか? 分からない。具体的に何が欲しいのか。それに見合った報酬なのか……
「いいじゃないか。叶えてやろう」
どこからともなく父上がやってきて言ったのだ。これには私も兄上も驚きを隠せない。
「「父上?」」
「え? 王さま? 本物?」
なぜ父上が……兄と目が合うと首を振られた。兄も知るところではないようだし、シャノンも驚いているようだ。
「面白そうなことを言っておったからわしも仲間に入れてもらおうと思った。なんでも異世界からの記憶持ちとか? きちんと対価を払おうではないか。何かこの国に住んでいて、こうすればいいとかそう言ったアドバイスを聞きたいものだ。何かないか?」
「それはたーくさん! あります」
「ほぉ。例えばなんじゃ」
興味ありそうに楽しそうな顔を見せる父にマリは堂々と答える。
「まず水! シャワーが使えないなんて……お風呂場を見直すべきよ。台所も。火をおこすなんて今どき流行らないわ」
「シャワーとはどういうものだ? それに火をおこさねば煮炊き出来んであろう?」
「シャワーはお風呂場に欠かせないの。髪を洗ったり体を洗ったあとにシャワーで流すの。水もお湯も調節出来るし、なんたってお湯が出て暖かくて気持ちいいの。水圧も変えられるようにしたら最高ね」
「ほう。どういう原理で出来ておるんじゃ?」
「原理? そんなもの──知らないわ……蛇口を捻ったら出てくるもの」
「蛇口とはなんじゃ?」
「蛇口の説明なんている? 子どもでもわかることなのに!」
「うむ。子供にも分かるように説明をしてくれんか?」
「こう手で右にひねったら、水がじゃーって出てくるの」
「その水はどこから持ってくるのじゃ?」
「えーっと、水道管? そんなことよりまだ私は知ってるんだから」
「ほぅ。他には?」
「あるわよ。たくさん! えっと、そうだ! 道が悪いのよ。もっと整備したらいいと思うわ。馬車に乗って車輪がぬかるみにハマることがなくなるもの! ガタゴトと揺れてお尻が痛いもの」
令嬢が人前で‘’お尻‘’など言うとは……恥ずかしくないのだろうか……
「どのように整備をすれば良いと?」
「そうね! 道路はコンクリートで整備するのよ!」
「コンクリート? それはどう言ったものじゃ? 材料は?」
「コンクリートはコンクリートよ! 固いのよ。アスファルトでも良いわね! 平坦になって便利よ。つくり、かた、は……」
口を閉ざすマリ
「……なんかローラーのようなもので、ギューってするの! 押し固める感じよ」
「材料が分からないのならば出来ないということじゃな。他は無いのか?」
「あるってば! そもそも馬車に乗るのが苦痛なのよ。車の開発をすれば良いわ! あと飛行機もね! はい。報酬」
「その車や飛行機とはなんじゃ?」
「もうっ! 車は車! 自動車よ! 馬車の代わりに動く乗り物よ! 百キロくらいは余裕でスピードが出るのよ! 自分で運転して、ガソリンで動くの」
「ほう、それは凄いな。どのような仕組みなんじゃ?」
「……だから! 分からないってば。あ!タイヤはゴムよ。黒いのよ。はい、報酬」
「そうか。他には?」
「そろそろ報酬を貰わないといけないくらい話をしてるのに! 飛行機とは空を飛んで人や物資を運ぶの。すっごい早くて何百人と運べるのよ」
「それは凄いな! 何で作られているんだ? 仕組みは?」
「飛行機は鉄よ! エンジンで飛ぶの。ジェットなんだから!」
「ご令嬢はその知識を持って、くるまやら、ひこうきを作れると申すのか?」
「作れるわけないじゃない! 私は文系なのよ。リケジョじゃないの」
リケジョとは? 父はすごいな。会話になっている。周りは(私も)マリを奇異な目で見ているというのに。シャノンに至ってはポカンとし、私の袖口を掴んでいる。
「ほぅ。出来ぬと申すか」
「電気もないし、スマホもないし……! そうよ。スマホさえあれば私はなんでも出来るのに!」
「すまほとはなんじゃ?」
「スマートフォンよ。スマートなフォン! どこにいても誰とでも繋がれるツールよ。分からないことはすぐに調べられるし、話しかけたら答えてくれる」
「よく分からないが、ロルシー子爵令嬢の言うていることは支離滅裂と言うところじゃな」
「なんで? こんなに素晴らしい知識を披露したのに! 最先端よ?」
周りの貴族達は不思議なものを見るような顔をしてヒソヒソと話をしている。
「父上。ロルシー子爵令嬢は支離滅裂で何を言っているか理解に苦しみます。ロルシー子爵令嬢、君の願いは叶えてやることは出来ないようだ。報酬の代わりに今夜の君の無礼を見逃してやろう」
兄上が冷静に言うとマリとかいう令嬢が大きな声で騒ぎ出した。
「なんでよ。こんなにいい情報を与えてあげたのに!」
「はあ。ロルシー令嬢よ、一体何が望みだ? 金か? 地位か? 言うてみよ」
父上は冷静ではあるが呆れている様子だ。
「お金でも地位でも無いわよ。ナセル様と結婚させて! あと邪魔なあのシャノン様を追い出して! そうしたらもっと便利な情報を教えてあげるわ。シャノン様がナセル様と別れたら──」
「うるさい。黙れ!」
大きな声でマリの言っていることを制し、思いっきりマリを睨みつけたところで、周りがざわついた……普段は冷静で穏やかだと評判の私が、ここまで取り乱すとはな。




