誕生日会3
〜マリ視点〜
なによ。何だか馬鹿にされている気分だわ! こんな最先端の情報を教えてあげたのに! なんでそんな顔をして睨んでくるのよ!! それに周りの貴族たちの視線もおかしくない?
そっか。私の知識が最先端すぎて想像すらできないのね。
それなら……
「シャノン様は昔、王女を賊からちょっと守ったからってナセル様に結婚を迫っているんでしょ! 私は知っているんだから! それにシャノン様はナセル様じゃなくてミカエルが好きだったのに、尻軽女じゃ無いの!」
結局はミカエルを捨てて王子を取ったんでしょ? 侯爵家の婿に王子を貰うだなんておかしいもん! それを許す周りも変よ!
「黙れと言っている! 君と結婚をするつもりなどまったくない。君が例え素晴らしい知識を持っていたとしてもそれは変わらない」
ナセルの怒りに、これは何事かと周りの貴族は見て見ぬ振りをしているが、聞き耳はバッチリ立てている。貴族って本当噂が大好きよね。三度の飯より噂が好きって感じ?
「なによ! シャノン様は王女を助けたときに背中に大きな傷を負っていますよね! それで──」
傷物女じゃないの! 背中がバッサリ切られるシーンを知っているもの。どこで見たかはわからないけど、シャノンはまだ子供だったわ。子供の頃から憎らしい顔をしていたからすぐにわかったもの。
誰かを庇った感じがしたけどあのチビは王女でしょ? あんな深そうな傷でよく生きていたわね……逆に感心するわ。だって周りは血の海だったわよ? となると、意外とこの国の医療は進んでいる?
「──そこまでっ!」
決して大きな声ではないけれど、王太子が厳しい声で私の言葉を遮る。まだ話をしている途中なのに失礼じゃない? 周りの空気がピンと張り詰めた。ざわついていた周りも静かになった。
シャノンを見たら青褪めるような表情をしているわ。そうよね! 事実だもの。首から背中にかけてバッサリ……だからドレスも背中が見えないよう、に……あれ? 傷が、無い。 なんで?
「それ以上シャノンを侮蔑することは許さない! 弟の誕生日会に集まってくれた皆には悪いが私は非常に気分が悪い」
そしてナセルがシャノンを抱き寄せた。周りの貴族達はどうすればいいのか分からないような顔をしている。王族が人前でここまで感情を出すことも珍しく周りはヒヤヒヤしている。
ナセルは今まで見た中で一番恐ろしい目をして私を睨んできた。
楽団による演奏も止まり、ダンスホールも人がはけていた。近くにいる人だけではなく、遠目でもこちらが注目され始めた。
(王女を庇って怪我をした。それはほんの一部の者しか知らない話であり、貴族が大勢集まる場所で例え偽りであっても王族の秘事を話すなんてもっての外である)
「私だって気分が悪くなったわ! そこにいるシャノン様のせいよ!」
シャノンの存在が私の気分を悪くさせる。シャノンは国のためになにができる? 私の存在は尊い。
王様ですらひれ伏すほどの知識なんだから。
だから私は王様を見た。するとその気持ちが伝わったのか優しい顔をしていた。
「うむ。ロルシー嬢には別で改めて話を聞くことにしよう。集まってくれた皆には迷惑をかけたようだな。この娘の話を少しするとするか」
そう言って王様は会場を見渡せる場所に向かった。その様は威厳があり、さぁっーと波がひいたように道があいた。
「皆、騒がせてしまって申し訳ない。今日は第二王子ナセルの誕生日と婚約披露に集まってくれて感謝をしている。先ほどわかったことだが、異世界からの記憶保持者がこの国にいるようだ」
皆が私を見ているわ。尊敬しなさいよ? 崇めなさいよね。王様自ら私の話をしているのだから。
「異世界からの記憶保持者というのは、今までの常識を覆すものをもたらすと聞く。記憶持ちは女性が多いとも聞いたことがあるが例に漏れずそちらの令嬢がその記憶保持者じゃ」
ザワザワと騒めく会場内。
「ある国ではその者を大いに讃え、ある国では聖女と呼ばれ、ある国では王の妃となり、ある国では異能とも呼ばれ地位を確立した者もいると言う」
皆が私を見て頷く。そうそう、私はすごいのよ。
「──だがのぅ。どうもこの娘と話をしていてもそのような才能があるとは思えんのだ。しかしながら異世界からの記憶保持者というのは国にとってプラスになる観点から、神殿で預けることにしよう」
パチパチパチパチと拍手が起きた。
「え! え! えぇ!! 神殿? 私が? なんで? なんで! そこはナセル様と結婚じゃないの?」
「国が存在を守らなくてはいけない。君は要人となったのだ。神に守られる方が良いじゃろう。記憶持ちはその存在が危うく攫われたり、命を狙われたりすることがある。他国からしたら喉から手が出るほど欲しい存在であり、聞いた話によると過去には酷い仕打ちを受け知識を引き出した例もある。わかりやすい言葉にすると拷問だな」
「そんなぁ……」
「神殿に入るのが嫌なのか? 神聖な場所だぞ。それとも他に望みはあるのか?」
「さっきから言ってるけど、ナセル様と結婚させて! 私は異世界の記憶保持者でしょ? 国にとって大事な存在なんでしょ! 王様なんだから簡単でしょ!」
「ほぅ。先ほど息子が言っておったじゃろう。息子には愛する者がいると。人の心を弄ぶのはやめんか! それで誰が幸せになる? 息子は王子と言う地位を降り侯爵家に婿入りをすることになった。君は我が息子のように何かを捨てることができるか? 報酬ばかりを強請るのではなく自分自身で考えて行動せよ! すると自ずと答えが出てくるものじゃ」
「考える? 自分で?」
「そうじゃ。先ほどから言っていた便利な世界とはなんだ? 異世界の便利なモノだと言うことは分かった。それが叶えば国は最先端の技術とやらで便利になるだろうな。しかし君は便利な物を知っていて、なぜそれがそのように動くか、考えたことがあるのか?」
「だって動いて当然だもん! 私が生まれる前からあってあって当然のものだから、理屈なんて関係なくて……感性の問題なんだってば」
「馬車移動が大変だと申したが、馬車も進化しておるんじゃ。それがゆくゆくはそのクルマとやらになるということだろう? だが馬車は急にクルマとやらにはならん。そのためにどうすればいいかを考えるのが道理ではないのか?」
「無理よ!」
「君が先ほど言ったすまほとかいうモノも人が作ったモノだろう? なんでも答えてくれると言うが、この世界にないモノじゃ。この世界では本が知識を高めてくれる。王立図書館には素晴らしい蔵書をたくさん揃えてある。まず君はこの世界の知識を知り、常識を身につけ、それに応じてこの国と異世界の知識をマッチしたものを考えて欲しい。分からないことがあれば教えてもらうのではなく、自ら調べるのじゃ。それが知識となる! それが出来たら報酬を与えることにする! 以上」
陛下が締めた後は神殿の関係者が、マリを連れて行った。
「ちょっと、あんたたち誰? 白装束怖いってば!」
ぎゃあぎゃあとみっともなく騒ぐマリを会場中が唖然として見ていた。
******
~ナセル視点~
その後聞いた話によると、マリは学園に入学したあとに急に何かを思い出したようだが、所々の記憶だそうだ。
花瓶の水がかかり私がマリを助け、それが出会いとなり、街に行き私とマリがデートをする。
そのあとは私の誕生日会でマリと婚約発表をする。
将来は新公爵家を興しマリは公爵夫人となる。
それが事実なら相手は違えど予知夢的な物なのだろうか……?
アップルパイは確かに好きだ。マリが言うには、マリの作るアップルパイが私の好物になった。ということだった。あり得ない! もう二度とアップルパイを口にすることは無い! なんだよ、幸運のアイテムって。
などなど……意味のわからぬことを言っていた。それにシャノンがマルガリータを抱いている記憶もあったそうだ。スチルと言ったか? その時にシャノンは賊に斬られ背中に深い傷を負ってしまったと言う……。
実際は流れてきた剣が腕をかすった。王家お抱えの医者が傷跡が残らぬように早期治療をして、今はすっかり傷はなくそのことを知るのはほんの一部だった。
その一部の人間もある理由から恐ろしくて口外することはなかったし、マリには単なる憶測にすぎないとし、王家を軽視する態度に神殿扱いとし、子爵令嬢の身分は剥奪した。
シャノンがマリとミカエルが仲がいいことに嫉妬してマリを虐めるとも言っていた。
まだよくわからないことを言っていた。異世界の記憶とはこれも含まれるのか? スチルとか言うのは絵姿のような物だと聞いたが、よく分からないし分かりたくもない。
それにしても貴族の令嬢としての品が全くない! 子爵が呼び出されどのように教育をしてきたかと尋ねたら、教師をつけても身にならなかったと言う。サボってばかりで頭を悩ませていたそうだ。
よくわからない記憶を頼りに行動していたことには呆れるしか無い。それにしてもシャノンがいじめ役とは……あり得ないだろう。
ほぼ引きこもりのような生活をし、両親に溺愛されて育ってきたシャノンが!




